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 なにを言ってるんだか理解できずにいると、ついに指定した階に着いた。  先生が俺の身体を剥がし、それと同時に俺の手を握ってエレベーターから出た。  前に先生の家に来たときも手を繋がれたな、なんてぼんやりした頭で思い出す。    が、少し歩いたところでエレベーターがあるところを振り返る。  先生の部屋は、エレベーターからは少し遠い。 「先生……」 「今度はなに」 「後ろから恐ろしい形相の女のひとが奇声を上げながら関節が歪に曲がった足で不気味な走り方で追いかけてきたりしませんよね」 「……え?」  少しだけ通路が暗く、足元のオレンジ色のフットライトで明度が保たれているだけだ。  このライトが消えてしまうなんてこともありえるな……と震える身体で考えていると、先生の部屋の前で止まった。 「せっ、先生早く開けて」 「ちょっと待って。今カードキーを」 「大体助かろうとした瞬間に絶望に落とされるんだからっ、俺まだ希望に満ち溢れてたい」 「さっきからなに言ってんの。ここはセキュリティ抜群だから」 「そうじゃなくて! もし俺にしか見えないものが見えたら俺は血を噴きながら踊って死にます」 「ふはっ……ほら、開いたから早く入って」  先生が半ば無理やり俺を部屋に押し込み、がちゃんとドアを閉めた。  暗かった室内がぱっと明るくなり、俺は力が抜けてその場にへたへたと座り込んでしまった。  ああ怖かった…… 「ホラー映画の見すぎ。ここは現実世界の三次元だから」 「俺、怖いものは嫌いだけどホラー映画は大好きなんです……」 「意味わかんない。ほら、靴脱いでリビング行って」  その指示通り先生に支えられながら立ち上がって、靴を脱いで先生の背後霊のようにふらふらと後をついて行く。  割といると思うんだ。怖いのは嫌いだけどホラー映画は好きっていうひと。  前に来た、リビングに辿り着く。  相変わらず雨は降っていて、雨音が響いていた。  先生がずっと持っていたふたり分の荷物を部屋の隅に起き、ワイシャツの袖を少し雑に捲った。  腕の筋が浮かび上がっている。 「腹減ってる?」 「……ちょっとだけ……?」 「ちょっとか。冷凍の焼きおにぎりあるけどそれ食う?」 「食べます」  先生も冷凍食品使うんだなあなんて思いながら冷凍庫を開ける後ろ姿を見ていると、先生が取り出したのはジッパーだった。    その中には明らかに手作りだと思われる焼きおにぎりが入っていて、俺はそれを見て駆け寄ろうとした。 「えっ! 手作り……いたっ」  歩くので精一杯なんだから、急に走ろうとしたらそりゃ転ぶに決まってる。  転ぶというよりは力が抜けて座り込んだようなものだけど、先生は俺を見て少し心配そうにしていた。 「落ち着け。普通の冷凍のやつとそんなに味は変わんないよ」 「俺だったら冷凍食品買っちゃいます……」  俺、焼きおにぎり結構好きなんだよなあ。  手作りの香ばしい感じも、冷凍食品の外れないあの味も。  先生が作った焼きおにぎりはどんな味なんだろう、と座り込んだまま見ていると先生が俺を見て苦笑した。 「床じゃなくてソファに座ったら?」 「はい」 「はは、素直」

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