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 まるでなにかのAVのようだ。  雷に怖がる生徒を教師が家に招き入れて、裸を見ないように配慮はしつつもほぼ同じお風呂に入るなんて。  きっとこれがAVだったらなにかしらの手違いでお互いが裸のところでお風呂でやってしまう……なんてストーリーになるんだろうけど、AVではない。  ただ、それでもやっぱり背徳感は消えない。  俺にとって先生は先生でしかないから。もしこれがただの男のおとなのひとだったら、特になんとも思わなかった。  ただ、普段の先生がスーツを着て皆の前で生徒に向かって授業をしている姿と、こうやってお風呂に入っている光景はどう考えたって結びついたりはしない。    だから、この半透明の仕切りが俺からしたらただの容易い塀でしかなくて、乗り越えようと思えばいくらでも乗り越えられる。  ────ただ、乗り越えてしまえばその瞬間に教師と生徒という関係は破綻する。  だから先生は、一緒にお風呂に入るような形式を提案したものの間接的とはいえ同じお湯に浸かることには一切触れなかった。  つまりは、そういうこと。  考えてるんだな……思ってたよりも。 「終わったから、風呂入っていいよ」  半透明の仕切りの向こう側から声が聞こえた。  その声を合図に俺は壁に手をつきながら立ち上がって、服を脱ぐ。  脱いだ服は洗濯機に入れていいと言っていたから、お言葉通りに洗濯機の中に放り投げる。  仕切りの向こうから扉が閉まる音がして、先生がサウナ室に入ったことがわかった。丁度そのタイミングで俺も服を脱ぎ終えたので、仕切りを開けて浴室の中に入った。  洗面所よりも蒸れた空間と、ソープの清潔感のある匂い。  浴槽を見てみると乳白色のお湯が溜まっていて、ほっかりと熱そうに湯気が立っていた。  ある程度シャワーで身体を流してから遠慮することなくその中に足を踏み入れてみると、かなりの適温でするすると身体が入っていった。 「ふ……」  あんまりにもお湯が気持ちよすぎて声にはならない程度の息を吐くと、先生には聞こえてしまっていたらしくサウナ室のほうから声が聞こえてきた。 「ま、お湯に浸かってそうなるのは世界共通だよな」 「聞こえてたんですか……」  サウナ室と言ったら木で出来ているようなイメージだったけれど、真っ白の壁に灰色の出入口が取り付けられていて、その向こうにサウナがあるらしい。  今は俺も裸だから、裸の先生がいると思うとどうもむずむずするというか、多少変な気持ちになってしまう。  お湯に肩まで浸かると、じんわりと身体全体が温まっていくような気がした。  特に見る場所がなくてお湯を見ていると、汚れひとつ浮かんでいないから先生はお湯に浸かっていないんだと思う。  俺が早くお風呂に入れるように、という先生なりの気遣いだったりして。  ただ単にサウナ室に入るからお湯には浸からなかっただけなのかもしれないけど。  お風呂場ひとつとっても、ここは居心地がよすぎる。  浴槽の中で寝てしまわないように気をつけながらお湯を堪能して、上がってから素早く髪の毛と身体を洗ってお風呂場から出ることにした。

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