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「はい、終わり」 「ありがとうございます」 「新しい歯ブラシ用意したから、これで歯磨いといて。その間に俺も髪乾かす」  新品、未開封の歯ブラシを渡されてしまった。  青色だから、たぶん予備の歯ブラシなんだと思う。  三面鏡を勝手に開いて見てみると、歯ブラシは1本だけ。女物のはないらしい。 「言っとくけど、この家に女入れたことないから」 「えっ、そうなんですか!?」 「なんでそんな驚くんだよ」  何度も入れたことがあるのかと思ってた。男のひとり暮らしにしてはやけに清潔感があるし、床も髪の毛ひとつ落ちていないから。だけどそれはこのひとが綺麗好きだからというだけなのかもしれない。  他の場所と比べて汚れが目立ちやすい水周りも、鏡だって垢の汚れがひとつもない。    気をつけているつもりでもこまめに拭かないとすぐに鏡は汚れるし、現に俺の家の鏡もちょっと汚い。  ……家帰ったら掃除しないとなあ。  シャカシャカと歯磨きをしていると、すぐに先生は髪を乾かし終えたようでドライヤーのコードをまとめていた。  ……わ、あ。  先生のノーセットの髪の毛は初めて見たけど、大学生に見える。制服を着ても絶対通用する。  先生がセットしているとき片目が結構隠れているけれど、今は両目が見える。前髪が長くて邪魔なのか雑にかきあげていて、初めて先生の顔全体を見たような気がする…… 「え、先生耳の穴空いてるんですか」 「……あー、気づいた?」 「今……」  片目が隠れているということは、普段の先生の耳も多少見えづらくなっているということ。しかも、耳たぶではなく軟骨に穴が空いているから今まで全く気づかなかった。  よく見たら、ピアスはついていないけど耳たぶにも穴がふたつある。  うわ、なんか意外だ。 「若気の至りってやつ。高校生のとき空けた」 「なんで軟骨だけピアスつけてるんですか?」 「んー、ここなら髪の毛で隠れるから。ちらっと見えたとき、教師なのにピアスあるんだ……って思うでしょ」 「計算なんですね」 「そう」  シルバーのシンプルなピアス。どうやらそれも先生の怠慢を演じる手助けになっているようで。  でも、割と先生のことを見ているつもりだった俺でも気づかなかったから、余程先生のことをしっかりと見ていないと気づけないだろう。 「そういえば、泣きぼくろもありますよね?」 「ああ」 「あんまりそれに気づいてるひといなさそう」 「見えないようにセットしてるんだから、当たり前」  先生の涙袋の少し下にある主張しすぎないほくろ。俺は顔にほくろがないから、なんだか新鮮に思えるし、先生の顔にはそこにしかほくろがないからより泣きぼくろが強調されているように思える。 「なんか……エロいですよね」 「……そう思われるのが嫌だから隠してんだよ」 「へえ、変なの」

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