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 優しく先生が俺の背中を叩いて、俺を安心させるようにぎゅうっと抱いてくる。  その温もりが今の俺には丁度よくて、風呂上がりで身体は温まっているはずなのに先生の温かみを身体全体で吸収するかのように先生に抱きついてしまった。  すん、と先生の鎖骨あたりに鼻を寄せて息を吸うと、いつもより控えめなシトラスの香りが鼻を吹き抜けていった。    先生の、匂い。    何故だかこの匂いを嗅いでいると安心して、俺がすっかり先生に体重を預けてすんすんと匂いを嗅いでいると先生が笑った。 「ふ、擽った」 「……」  俺の頭を抱き寄せた先生が、俺の髪の匂いを嗅ぐかのように顔を近づけて、先生がすんと鼻で息を吸う音がした。  それが少しむず痒くて、身体を動かしてしまう。 「俺の匂いがする」  どこか嬉しそうに、掠れた声で耳元でそう言われた。  別に爽介に触られてもなんともなかったはずなのに、先生の息がかかっただけでひくんと反応してしまいそうになった。  それに気づいたのか気づいていないのか、先生が俺の耳元の髪の毛をさらりと耳にかけて、俺の顔がよく見えるようにしていた。  その際先生の指が俺の耳に当たって、口から吐息が漏れ出てしまった。 「……ん……」 「指震えちゃって……可哀想に」  先生が俺の手を取って、きゅっと指を絡めて握った。俺の指の先はすっかり冷たくなっていて、先生の指がより温かいように感じた。  季節は、夏。  こんなに密着していたら先生も暑いはずなのに、しっかりと効いている冷房のせいもあってか温かい先生に抱かれていると気持ちがいい。  こんな風に、こんな夜に満たされる気分になれる日は来ないと思ってた。  ましてや、先生となんて。 「先生……もっと」 「ん?」 「もっと強く……」  もっと安心したい。もっと先生の温度を感じていたい。  そう思って、おねだりをしてしまった。  それでも先生はすぐに俺のことを抱きしめる力を強くしてくれて、先生の匂いがより濃くなったような気がした。  先生は相変わらず俺の髪の匂いを嗅いでいるし、俺も変わらず先生の首あたりの匂いをずっと嗅いでいる。  ……なんだか、変態みたいだ…… 「俺からそんなにいい匂いするの?」 「ぅん……」 「素直だな」  ぽんぽん、と頭を優しく叩かれた。  息を吸う度に先生の匂いがするのは、悪くない。  ずっとその体勢でいて、どのくらいの時間が経ったんだろう。  先生が時間を確認して、「あ」と声を出した。 「9時か……もう寝る?」 「寝ます……」 「……俺と一緒でいいの?」  その声に、ゆっくりと顔を上げる。  眠たいのかなんなのか、先生がぼやけて見えたからどんな顔をしているのかはよく見えなかったけれど、とろとろに甘い顔をしているんだと思う……そんな気がする。 「いっしょに……寝ます」 「……まあ、どんだけ拒んでも離すつもりなんてなかったけど」 「?」  なんて言ったんだろう、と聞き返すより先に先生が体勢を変え、俺のことをお姫様抱っこして歩き始めた。  さすがにお姫様抱っこをされたら少しは目が覚める。 「っちょ、それはさすがに……っ」 「じっとして。落ちる」 「うっ……」  大人しく先生の腕の中で収まっているしかないなんて、これなら抱きしめられていた方がよっぽど恥ずかしくない。    高校二年生にもなってお姫様抱っこをされる日が来るなんて……

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