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「折角俺が褒めてるんだから、素直に受け取って。ちゃんと本心だから」 「尚更拒否したくなります」 「お、言うなあ」  先生がくいっと口角を上げて笑った。   「地元の高校には行かなかったの?」 「はい」 「理由、聞いてもいい?」  地元の高校には行かず、わざわざ今の高校に入学した理由。  先生には話していなかったんだっけ……とぼんやりした頭で考えながら理由を思い出す。 「中学生のとき、特に目標とかはなにもなくて……ただ、地元で一番の進学校に行ければそれでいいかな、って思ってたんです」 「うん」 「それが当時の俺にとっての最善で、敷かれたレールの上を寸分の狂いもなく走るような、そんなものだと思ってました」  勉強に明け暮れて、青春の欠片もない日々を過ごしていた。  なんとなく爽介に誘われてバスケ部に入って、たまたまバスケの才能があって部活を続けて、することがない日は学生らしく勉強に勤しんで、頑張っただけ結果が出る勉強はそれなりに楽しいと思っていた。  ……いや。相応の結果が出ることで、俺という人間をなんとかして肯定したかったのかもしれない。  特に生きる喜びも感じていないまま気づけば中学三年生になってしまって、少し勉強量を増やせば余裕で合格圏内の高校を選ぼうとしていた。 「でも、そんなとき……クラスの女の子が貰いすぎたからって、東京の高校のパンフレットを渡してきたんです。制服がお洒落だって有名で、偏差値もまあまあで先生の質もいいし、進学率も高いっていう、まさにテンプレな高校の」 「……」 「偏差値は地元一の進学校よりもほんの少し低いから行ったところで……なんて思ってたけど、ふと、この高校に入りたいって思っちゃって」  青春とはかけ離れた日々を過ごしていた。  燃えるような恋をしたこともなく、話したこともないひとに好かれてどこか冷めた日常の毎日。  何度も何度も繰り返されるその毎日に、僅かに嫌気が指していた。  もっと、俺の中の“なにか”を激しいくらい刺激してくれるものがあったらいいのに────なんて。 「なにもない、退屈でしかない生活から逃げたいって思った」 「……」 「臭い言葉だけど……運命、みたいな。中学は学ランでブレザーに少しだけ憧れがあって、校則も俺が行こうとしてた高校よりも緩くて、もしかしたら、その高校よりもずっと充実した日々が送れるんじゃないか……って」  ほんの1ミリにも満たない願望だった。  それでもそれを叶えられないままにしていられるはずもなく、俺はすぐに進路を変えた。  両親に話したら反対するどころか俺が言った我儘をどこか喜んだ様子で高校からさほど遠くはない、セキュリティもしっかりしたアパートをいくつもピックアップしてくれて。  高校に合格することを確信していたのに両親は俺よりも喜んでいて、俺が東京に行く日も笑顔で送ってくれた。  ……俺の隣にいた爽介も共に。 「それを爽介に話したら、俺も律と同じ高校に行きたいって言って聞かなくて……だからまあ、爽介も同じ高校なんですけど」 「うん」 「それで合格して、今に至ります」  漫画のような、あまりにも出来すぎたキラキラした生活というわけでもないけれど、俺が思い描いていたよりもずっと高校生というものは楽しい。  ……悔しいけれど、先生と関わるようになってそう思える機会が増えたような気もしなくも、ない。  ……ああ、俺、雷やらなんやらで弱くなってるな、たぶん。 「……生きてる上でのなんらかの出来事って、少なからず自分が起こしてきた行動とは関係がないところで動いていると思うんです」  柄にもないことが、次々と。 「恩人と再会したりとか、失くしたネックレスを偶然見つけたりとか、何気ないもので思いのほか作り上げられているのかなって」  こんなこと、思っていても絶対に言わないのに。 「そう思ってみると……俺は先生の生徒でよかった」

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