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「俺歯ブラシ持ってくんの忘れたんだけどさ、さすがに歯ブラシくらいは残ってるよな?」 「どうだろ。トイレ掃除用にされてたりして」 「うわ、俺の家族ならありえるんだよな……あ、優馬からLINEきてる。お土産忘れんなだってさ」 「相変わらずちゃっかりしてるなあ」  ついに、憂鬱だったお盆に突入。  今年のお盆こそは帰らないとかなり面倒なことになりそうなので、重い足を動かして帰ることを決心したのが随分前のことのように感じる。  帰ると言っても三日間だけだし、爽介も一緒だから心強い。  爽介も俺も東京の高校のため家族と会う頻度は驚くほど減った。爽介は頻繁に会っているらしいけど、俺は半年以上会ってない。  爽介は従兄弟の家に居候していて俺みたいに一人暮らしではないから、たまに俺を羨ましいと言う。  どうやら爽介も一人暮らしをしたかったらしいけど、爽介は家事が全くできないので親が猛反対し、せめてもの妥協案として従兄弟の家に居候することになったのだとか。  去年の夏合宿で、練習着を洗濯するために洗剤をまるまる使ってとんでもない騒ぎを起こしたことは未だに忘れない。  新幹線に乗ること1時間。  間もなく目的の駅に到着するとのことで、俺の気はどんどん重くなっていく。 「はあ……行けない理由を色々考えてみたんだけど、全部非現実的で無理だった」 「……まあ律の親戚は結構クレイジーというか、頭ぶっ飛んでるからな……そうなるのもわかるよ。どんな言い訳しようとしてたんだ?」 「原因不明の病になって身体が動かせない」 「ふ、それはさすがに無理だな」  別に家族に会うことが嫌なのではない。寧ろ家族は好きだから、出来ることなら何度も会いたいとすら思っている。  ただそれは親戚がいなければ、の話。  あの色濃い面子を思い出して、ズキズキと元々重い頭が更に痛くなってきた。  冗談抜きで、身体が拒否反応を起こしている。  部活をやっていることもあり、中々時間が作れず長期休みしか会える時間がない。  でも、長期休みに限って親戚がいる。というわけだ。最早今の俺に回避できる術など存在しない。 「今日は俺がいるから大丈夫だって。律ひとりに向く興味が俺にも来るはずだから、2分の1。な?」 「もーずっと俺んちいてよ。そしたらあの質問攻めだのなんだの俺にはそこまで向かなくなるんだから」 「……お、俺にも家族がいるからさ……」    この爽介ですら少し躊躇うくらい強烈なんだ。本当に嫌な気分になってくる。  今日は俺の家でお昼を食べて行け、と言われているため最初は爽介も俺の家にいる。  家族ぐるみで仲がいいから、さすがに爽介も断れないだろう。  俺の親戚はなんせ人数が多く、普通の家よりは広めの俺の家ですら少し狭く感じる。  年齢層も幅広く、俺より下だったり俺とほぼ同年代の親戚が一番扱いづらい。両親と同じくらいの年齢のひとたちもうるさいから嫌だけど。 「あ、もう着く」 「いやだあぁぁ」  俺が行きたくなさすぎて座席にへばりつこうとしても、呆気なく引き剥がされる。  こういうときの爽介は優しくない。

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