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「ほら、食べなさい食べなさい!」  箸を差し出され、コップには麦茶が注がれた。  俺と爽介の周りには大人やら子どもやらがいて、こんな注目された中で落ち着いて食事なんてできるはずないだろう。    それでも爽介は一切気にする素振りを見せず、「いただきます」と言ってから新鮮な刺身に手を伸ばした。  俺も爽介と同じように、手を合わせてから刺身に手を伸ばす。  醤油と僅かのわさびをつけ、食べる。  うん、美味しい。紛れもなく美味しいはずなのに、味が一切しない。  それも、この空気感のせいなんだろうけど。  落ち着いて食事ができるはずもなく、周りの大人たちは次々と無遠慮に話しかけてくる。 「ふたりとも立派になったのねぇ〜、ほんっとお婿に欲しいわ」 「なに言ってるの、私の家の方がいいでしょう? ねぇ?」 「……はは」 「律くん律くん!」  俺がまだ箸を持ったままなのに、男の子が俺の右腕に追突してきた。  うわ、まじあぶねえって。  しかしそんなことはお構いなしに男の子は俺の腕を掴んで思い切り揺らしてくる。 「おれのこと抱っこしてよー!」 「あー! わたしが先ー!」 「その次わたしがいい!」 「じゃあその次おれ!」  すると次々子どもが集まってきて、服を掴まれたり腕を掴まれたりなど、されたい放題だ。  爽介がなにも言わないから爽介の方をちらっと見ると、どうやら爽介も子どもに囲まれているようで、それで精一杯のように見える。  あーどうしよう。  このままじゃ服は伸びるし落ち着いて食事もできないし困るな…… 「もー、律くん困ってるでしょ! 子どもは子ども同士で遊んでなさい!」 「僕と追いかけっこでもしようか〜。追いかけっこしたい子たちおいで〜」  俺の様子を見かねたのか、俺と同い年くらいの男女が助け舟を出してくれた。  男子がそう言ったので体力を持て余す子どもたちはわあわあ言いながらついて行き、爽介にくっついていた子も走ってついて行っていた。  あと少しで伸びそうになっていた服の安否を確認し、助け舟を出してくれた女子にお礼を言う。 「ありがとう、えーと……」 「大丈夫。子どもたちは新しいもの好きだし気まぐれだから、遊んで帰ってくる頃にはすっかり疲れて寝ると思うよ」 「ごめんね、わざわざ。ありがとね」  爽介がその子にお礼を言うとその子は僅かながら顔を赤く染め、そっぽを向いてしまった。  こういう反応はなんだか新鮮で、ほんの少しだけ顔が緩んでしまった。  この子みたいな子をツンデレって言うんだっけ。 「本当に助かった。俺、小さい子苦手だから」 「……別に。私が見てて気になっただけ」  ふいっと顔を背けて、元いた位置に少し小走りで戻って行った。  今どきあんな反応をする子もいるんだなあ、と高校の女子たちを思い浮かべて頭の中で比べていると、爽介がおもむろに口を開いた。 「……そういえば律、高校に入ってから急に女子と喋らなくなったよな」

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