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「気もないのにそういうのは色々と失礼だと思うので、遠慮したいんですけど……」 「なら友達からでもいいじゃない、ねえ?」 「そうよ。ひととの繋がりっていうのは大事なのよ。そうだ、私にも娘がいるの。大学一年生なんだけど……」  次から次へとひとがやってくる。  早い者勝ちでもなんでもないし、俺たちは出会い目当てで地元に帰ってきたわけでもないのにこうなる。  俺が中学生の時から、なぜかこのように紹介したいと言うひとが多かった。  その時はなにがなんだかわからず、全て闇雲に断っていたけど高校生になった今ならわかる。  要するにこのひとたちは、自分の娘を爽介みたいなイケメンと結婚させたいだけ。    そのためだけにこうやって俺や爽介に話を振ってくるんだから、本当馬鹿馬鹿しいというか、なんというか。  もし爽介がいなかったら俺がこの攻撃をひとりで食らうことになっていた。  爽介を巻き添えにするのは本当に申し訳ないけれど、これは俺ひとりでは無理だ。 「あの、ですから……」 「もう、ほんっと固いことばっか言うのね」  急に大きい声で言い出したのは、俺が一番苦手とするおばさんだ。  はあ、と大袈裟にため息をついて、俺だけを見下すように視線を寄越してきた。  その目が俺は大嫌いだ。    このひとからしたら、もう爽介のことなんて眼中にないのだろう。やたらと俺を攻撃することに拘るから。  理由は知らない。 「別にいいじゃないの会うことくらい。それよりもね、あなたはお母さんとお父さんに感謝するべきなのよ。そんな綺麗な顔に産んでもらったんだから」 「……俺は、両親に対しては産んで育ててくれたことに感謝しています。そんなことに感謝の情を抱いたことは1度もありません」  俺がどんな顔でも、両親は変わらず愛を注いでくれただろう。  それを、この顔に産んでもらったんだから感謝しろだなんて、お門違いにも程がある。  俺のことなんてなにも知らないくせに。    しかし俺の言うことなんてどうでもいいのかなんなのか、「ああやだやだ」と手で俺を払うような仕草をした。  その仕草に、反射的に舌打ちしてしまいそうになる。 「小煩い子なのね。あの素敵なご両親から産まれた子とは思えないわ。そういうところとか、ほんっとお兄さんにそっくりね」 「……!」 「可哀想な子ねぇ、お兄さんまで亡くして、そんな捻くれた考え方まで身についちゃったなんて。お兄さんもあなたみたいにそんな性格だから────」  目の前のおばさんが、言葉を不自然に区切って俺のことを目を見開いて凝視した。  それは、俺が机を力任せに思い切り叩いたからだ。  楽しそうに会話をしていた全てのひとたちが会話をやめ、俺の方を見ているのがわかった。  それくらい、俺が机を叩いた音はその場に響いた。  俺へと向けられる数多の視線も、今はもうどうだっていい。 「……線香を、あげ忘れていました。失礼します」 「……律」 「爽介、行こう」

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