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「……どうする、律。戻る?」 「……戻りたく、ない」 「だよな。俺も」  俺が兄さんを失ってから、食欲がなかったり元気をなくしていた俺を支えてくれていたのは爽介だった。どれだけ俺が荒れても、爽介は変わらず傍にいてくれた。  爽介は、俺にとって兄さんの存在がどれだけ大きかったかすごく理解をしてくれていた。  だから爽介も、あのおばさんの言葉を聞いて不快になったのだろう。  珍しく眉間に皺が寄っている。  ……こんな気分になりたくなかったから、帰ってきたくなかったのに。  でも、母さんや父さんにこんなことを言ったら迷惑になるだろうから、言えない。  どうするかと悩んでいると父さんが開きっぱなしの扉から顔を覗かせた。 「お、爽介くんありがとな。迅にお線香をあげてくれて」 「いえいえ」 「ふたりとも、もしあれだったら外で食べてきたらどうだ? ……あそこに父さんがいなくて、ごめんな」  事情を聞いたのか、父さんが申し訳なさそうな顔をした。  ああ、そういう顔をさせたいわけじゃなかったのに。兄さんを失って、一番ショックを受けるのは子どもに先立たれた親なはずで、それを隠して俺を育ててきてくれたのに。  ……俺のことも兄さんのことも侮辱されて一番腹を立てているはずなのに。 「……わかった。そうしてもいい?」 「勿論。お金は渡すから。夜になるまで帰ってこなくても大丈夫だぞ」 「ありがとうございます」 「爽介くんも、ごめんな」    父さんの言葉通り、俺たちは夜ご飯の時間まで家に帰ることはせずにずっと外にいた。  久しぶりの地元だから退屈するということはなく、中学の頃の話をしていたりとかしているとあっという間に時間は過ぎた。  爽介も実家に戻ろうとしていたが、どうせなら律の家に泊まりたいと言い出したので、爽介と一緒に俺の家に戻った。  戻った時うるさかった親戚たちは全員帰ったようで、残っていたのは優しいおばさんや温厚なおじさん、後は俺と同じ学年の男女二、三人くらいだった。  ああ、よかった。  俺が苦手なひとは誰ひとりいない。 「律くん、爽介くんおかえり」 「ただいま。ごめん、席を外して」 「ううん。私は全然気にしてないから」  俺と爽介と仲良くしていた女の子、()()。俺の親戚とはいえ住んでいる場所も近く、中学も一緒だったので仲が良かった。  あの場に美彩がいたのは知っているけれど、さすがにあの場面を見られていたのはなんとなく情けない。 「ね、せっかくだし一緒にご飯食べよ。皆食べ終わっちゃったけど、私たちふたりが来るの待ってたんだ」  やや強引に、美彩が俺と爽介の背中をぐいぐいと押した。  連れていかれたのは既に料理が置かれている客間で、ここはキッチンからも近いから料理を運びやすかったんだろうな、と勝手に想像する。  ……と、とある男子と目が合った。  さっきの大部屋でも、最初に目が合った(とも)(ひろ)。どうしてこんなに俺に目を合わせてくるんだろう、意味がわからないと思ってまた目を逸らしてしまう。  別に仲が悪いわけではない。ただ、良くもない。それだけ。

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