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6-13
ふたりが暴走し始めた。いや、暴走しているのは蓮だけか……
東京に限らず、どこにでも可愛い子なんていると思うんだけどなあ、と思う。
「美彩だって十分可愛いよ」
特に深い意味も持たず、美彩の顔を見てそう言う。すると、怒ったように眉を釣り上げていた顔がどんどん赤くなっていき、俺を見つめていた。
「怒ったら台無し。蓮もあんまり怒らせるな」
「律くん……」
「律しゃま……」
「やめろ」
美彩が目をうるうるとさせるのはまだわかる。けど、蓮が目をうるうるさせて俺のことを見つめてくるのは訳わからない。
食事をする手が止まってしまったので改めてご飯を口に運ぶと、爽介が俺のことを見つめていたらしく。
「……律って無自覚誑しだよな……」
「えぇ?」
その後もわいわいと食事をし、全員が食べ終わったのは30分後のことだった。
……とある人物は、ほぼなにも言葉を発さずに俺のことをじっと見てきただけだったけれど。
爽介とは部屋の前で別れ、自室に入る。
久しぶりの自室に、どこか懐かしい匂いを感じながらも敷かれている布団にほぼ倒れるような形で寝転ぶ。
やっぱりとは思っていたけれど、すぐには寝れない。いくら落ち着ける実家とは言え、熟睡できるというわけではなさそうだ。
こんなに心も身体も疲弊しきっているのに、眠りにつけないのは中々のストレスを感じる。
とりあえず目を閉じなければ眠れないから、一応目は閉じておくことにした。眠れるかどうかは別として。
なにか無駄なことを考えてしまうと本当に寝れなくなってしまうから、今は全ての情報を遮断することにした。
……それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
相変わらず眠れないし、布団を被っている暑さで身体に薄く汗が滲んできた。
やっぱり今日は寝るのを諦めて徹夜しようかな……と思い、目を開こうとしたが気配を感じて目を開く寸前で留まる。
────やっぱり。
気配を察知し、身動きを取らずにいると布団から出ている肩に両手が置かれ、圧迫された。
生温い荒い息遣いが顔にかかり、その感覚に顔を顰める。
耐えきれずばっと目を開くと、恐ろしいくらい無表情のくせに明らかに理性が感じられない顔と目が合った。
俺が目を開いたことに動揺したのか、細い一重の瞼をかっと見開いて俺を見つめていた。
「……なに、やってんの」
「あ……あ……」
俺よりひとつ下の、五人でご飯を食べたときに基本的に無口でずっと俺を見つめていた男。名前は、なんて言ったっけ。
何年も前から下品な欲情が滲み出ていた目で見られていたから、こうなることは予想していた。
予想はしていたけれど……いざ、その目を至近距離で見ると気持ち悪くてしょうがない。
最初は動揺した顔をしていたくせに、みるみるうちに恍惚とした笑みに変わっていき、不気味に口の両端をゆっくりと上げた。
目が三日月のように変形する。
まるでこれから俺を襲う合図のように。
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