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「律くん……律くん……おれの、律くん……」 「っ」  興奮で声が震えているのか、腹から出しているような太い声で何度も名前を呼ばれてあまりの恐ろしさに息が止まりそうになった。  俺に向けられている、過剰な好意。  純粋な好意とは違ってその中には危険な因子も孕んでいる。  ただ、その目を見ることで俺の中のなにかがすぅっと冷めていき、肩に乗っかっている手の重さが加わったことがとても気に障った。 「かわいい……ふふ……」 「っちょっと」  今更、着物を着ていることを後悔した。布1枚をひとつの帯で固定しているようなものだから、容易に形は崩れる。  胸元の布と肌の隙間にじっとりと濡れた手を入れられ、馬乗りをされているから身体は動かせない。手で払えばいくらでも防げるけど、こいつになんか触りたくない。  はあはあと、どんどん息が荒くなっていくのをどこか冷めた目で見つめる。  ……肌を見られても別に構わない。    ただ、それをおまえが見たところでどうなるのかは知らないけど。  俺の鎖骨の辺りにある“それ”を見てこいつは動きを止め、がたがたと急に震え始めた。 「なんだよ、これ……」 「……」  知らぬ間に先生がつけた、赤い痕。誰がどう見てもキスマークだとわかるそれは、俺の肌には赤すぎるくらい主張していた。  暗い中でも十分に見えるだろう。ショックを受けているこいつの顔を見て、俺はほくそ笑む。 「わかったら退いてくれないか」 「……っ、いやだ……こんなのいやだ、いやだいやだ……」 「俺はおまえのものじゃねえよ」 「違う! こんなの、違う!!」  あまりにも怒りが溜まったのか、裏返ってしまうほど感情が篭ったような声で叫び、俺の身体から手を離し、畳を力任せに叩いていた。その隙に身体を起こして乱れた着物を整え、座ったまま後ずさってそいつから距離を取る。  ドンドンと未だに畳を叩いている。  襖が閉じているとはいえ、もしかしたら隣の部屋に寝ている爽介が目を覚ましてしまうかもしれない。爽介には、こんなの知られたくない。  まるで、小さい子どもが癇癪を起こしているみたいだ。  もう高校一年生のくせにこんなにみっともなく感情を露わにするなんて、と不快感を隠すことができない。  諦めてさっさと出てってくれねえかなあ、なんて思っていると下を向いて震えていたと思えば急に顔を上げて俺を見てきた。  その目は血走っていて、恐怖すら感じる。 「……誰……?」 「……」 「誰がつけたんだよ、それ」  かたかたと震えている人差し指で、俺の胸元を指さした。  俺はそいつに見せつけるようにわざとゆっくり微笑んで、端正な先生の顔を思い浮かべる。  俺が微笑んだことで相手は歯をぎりぎりと食いしばり、歯ぎしりの音が聞こえてきた。 「おとな」 「……は……?」 「悪い、おとな」

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