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「泣いて、ない……っ」
肩が上がり、嗚咽の声すら出してしまったのに俺はただの強がりでそう言った。
先生は、俺が泣いていることなんてとっくに気づいているだろうに、『そっか』とだけ言った。
『律はだめな子じゃない。優しくていい子だよ。そうやって自分を否定しないで。お願いだから』
「……っ、でも……」
その先生の優しさに、涙は止まることを知らずに溢れてきた。
こんなこと今までなかったのに、どうして。なんで。
どんなに辛いことがあったとしても泣くことなんてなかった。今日みたいに親戚にいびられても、耐えることなんていくらでもできた。
兄さんが亡くなってからは耐えることに慣れたからいつしか痛みすら感じなくなったのに、俺の弱い部分を守るものが気づけば消えていた。
そのうち、弱い部分すら消えかけて────俺の中の微かな人間味すら、なくなりそうだったのに。
また、その部分が顔を出して俺のことを痛めつける。まるで、俺にちゃんと心があると言いたげなように、冷めた身体を熱くさせようと必死になって心が痛くなる。その痛みに慣れていないから耐えきれずに、涙が出る。
俺があまりにも泣きじゃくるから、先生が訴えるような声で、絞り出すような声で言った。
『……俺がいないところで泣かないで』
「……っ」
『抱きしめてあげたいのに、できないだろ……』
きっと、この言葉は冗談じゃない。
もしこの場に先生がいたら、先生は俺のことを痛いくらいきつく抱きしめてくれるだろう。俺が余計なことを考えられないように、余すことなく先生で満たしてくれるだろう。
今ここに先生がいて、先生の持っている熱が冷めた俺の身体に染み込むのなら俺は、きっと。
「会いたい……」
俺は先生を、どこまでも求めてしまう。
『……』
「会いたい、先生……」
こんなことを言っても、困らせるだけなのはわかりきっていた。
会いたくても会えない。
会いたいと言ったからといってすぐに会える距離には、いない。そんなのわかってるのに。
それでも、俺を抱きしめてほしい。
大丈夫だよって言ってほしい。
俺が嫌になって胸焼けするくらいに甘やかされたい。
……俺が、なにも考えられなくなるくらい。いっそのこと、俺の身体全てが蕩けてなくなってしまうくらい。
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