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「っう、う……」
遂には、足から崩れ落ちてその場にしゃがみ込んでしまった。
庭に敷かれている丸石がじゃらじゃらと音を立てて擦れ合って、俺はその上に崩れ落ちる。
兄さんと先生を重ねているから先生を求めているのかどうかはわからない。
けど、俺は先生の熱を思い出してしまった。そうなったらもう、止まらない。
『……あし、』
先生がなにかを言おうとした途端、プツリと大きな音を立てて通話が終了してしまった。
俺のスマホの充電がゼロになったからだ。
モバイルバッテリーはあるけれど、今は自分の足で部屋に戻れるような状況じゃない。
先生の声が聞けなくなった喪失感と、完全にひとりになった孤独感で身体が動かなくなった。足に丸石がくい込んで、痛む。
なんとか立ち上がろうとしても身体に力が入らず、思うように上手く動かせない。
俯いていると涙がボロボロと零れ落ちてきて、丸石が濡れて涙が染みた。
「……律?」
すると、随分聞き馴染みのある声がした。
もしかして、と思って振り向くと、そこには爽介が立っていた。
俺の顔を見て爽介は驚いた顔をするけれど、特になにかを聞いてきたりはせずに優しく俺の手を引っ張って、立たせてくれた。
俺の手を引いたまま歩き、その間は俺の顔を見ないでいてくれたから流したままの涙を拭う余裕ができた。
爽介は俺の扱いをわかっているから、爽介用の部屋に戻った後もなにも言わず布団の中に入れてくれて、半ば死んだかのように眠ると気づけば朝を迎えていた。
ほぼ同じ時間に起きた爽介は、優しい声で「目が腫れなくてよかったな」とだけ言った。
本当に、俺には勿体ないくらい良い友人を持ったと思った。
「あっ、と……」
「そこ足場悪いから気をつけるんだぞ」
爽介を家に送り、俺は今父さんと一緒に兄さんの墓参りに来ている。
父さんのあとについて行くけれど、本当は兄さんのお墓がどこにあるかはちゃんとわかってる。
墓がたくさん並ぶ山道を歩き、父さんがひとつの墓の前で足を止めた。
椎名迅。そう書かれた墓を見つけ、俺は心臓が締め付けられるほど胸が痛くなった。
────ああ、やっぱり辛い。
ぐっと下くちびるを噛んで紛らわそうとするけれど、それでも心に広がった痛みはすぐに消えない。
それどころか更に痛みは増す。
兄さんが亡くなって、もう三年。まだ、三年。
三年前に比べたら辛さは少しは軽減されるけれど、それでもやっぱり辛いとは思う。こうやって墓参りに来れたのも、兄さんの死と向き合えるのも、全てはあのときから時間が経ったからであって。
時間が解決したとはいえど、俺は変わらず無力なままだ。
父さんが、少し土の付いた墓に水をかけた。
俺もそれを手伝うように乾いた布巾で拭いていく。
父さんも俺も無言だった。
すると父さんは、水をかけ終えた後に口を開く。
「……律」
「ん?」
「迅が亡くなったことに簡単に触れてくるひとには、もう関わらないでいいからね」
「……!」
父さんが、俺の顔を見ながら優しい顔で言った。けれどその裏には猛烈な怒りが潜んでいることを、俺は知っている。
それが父さんの限りのない優しさだということも、俺はわかりきっている。
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