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6-21
墓参りを終えてから家に帰り、昼食を食べてから久しぶりの両親との穏やかな時間を過ごした。
メールでやりとりはするものの文字だけでは伝えきれないことも多く、二年生になってからの高校生活や仕送りについてなど、他愛もないことを話していると母さんが急に立ち上がり、とあるものを持ってきた。
「見て、これ。律が小さいときによく読んでいた本をこの間見つけたの」
「うわあ、懐かし……」
高校生になった今では小さく感じる薄い本。表紙にはひらがなで「しんでれら」と書かれており、かぼちゃの馬車に水色のドレスを着たお姫様など、シンデレラの話を彷彿とさせるものだった。
小さいとき、王子様に憧れた。
舞踏会にやってきたシンデレラに恋をして、12時になる前に消えてしまったシンデレラのガラスの靴だけを頼りに、忘れられないひとを探す……だなんて、こんなに素敵な話があるんだ、と小さい俺は感動した。
この王子様みたいに、俺もいつかはお姫様と出会えるのかな……なんて、そう思っていたのは小さい俺だ。
お姫様を運ぶかぼちゃの馬車も、お姫様を変身させた魔法使いも、舞踏会が行われる大きいお城も、存在はしない。
シンデレラストーリーなんてよく言うけれど、あまりにも作り込まれすぎたそれは俺たちに夢しか与えてくれない。
実際、自分のストーリーなんて自分で作り上げるものだ。待っていても、訪れたりなんかしない。
結局自分で切り開いていくしかなくて、見えない道を探り探りで進んでいくことは、怖い。
……なんて、こんなことは高校生にならないとわからなかった。
小さい本に懐かしさを感じて開いてみると、やはりそこには王道と言ってもいい話が繰り広げられている。
女の子はお姫様に憧れた、男の子は王子様に憧れる。もれなく俺もそうだった。
けれど……誰しもが、主役になれるわけではない。
「ずっとこの本読んでたよね。家の中では離そうともしないで」
「はは、懐かしいなあ。律はもう覚えてないだろうけど」
「……ちょっとしか覚えてないなあ」
そのちょっとしか覚えていない部分が、俺が王子様に憧れていた、なんて。
笑える。
ぱらぱらと適当にページをめくり、とある言葉が目につく。
『王子様は、ガラスの靴がぴったり合う女性を自分の妻にする、と言いました。』
すごいな────と、どこか冷めた心でその言葉の意味を理解しようとする。
もし俺の目の前でガラスの靴を落としたとしても、俺は一目惚れだからと言ってそこまでして探すことなんてできやしない。
……美しい話だ。
今の俺には、到底理解もできそうにないけれど。
やっぱり恋というものは、ひとを変えてしまうのだろう。たとえそれが国の王子様であっても、ただの姉の召使いだったシンデレラであっても。
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