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「律は今、東京の高校に通っているからなにかあってもすぐに助けることはできないけど……遠くから支えてあげることなんて、いくらでもできるの」
「……母さん」
「前に進んで。あなたは、まだまだこの先もあるんだから」
……もしかして、母さんには見透かされてしまっていたのだろうか。
俺が未だに兄さんのことを引きずっていて、完璧に隠していたつもりなのに、ばれていたのだろうか。
……きっとこの口ぶりなら、ばれているんだろうな。
そうでなければこんなに意味深なことは言わないだろうし、わざわざ俺に言わない。
すると今まで口を閉じていた父さんが足を組み直し、「父さんも同じだ」と言う。
子から見ても十二分に端正な顔が和らぐ。
「子どもの手助けをするのが親の使命なんだから、なにかあったら頼りなさい。律は、溜め込んでしまう癖があるからね」
「……」
「それと……ちょっと寂しいから、メールの返信はもうちょっと文の量を増やしなさい」
「……あは……」
まさか父さんからそんな言葉を聞くことになるとは。
確かに俺はメールは少し素っ気ないかもしれないけど、気にしてたんだ……
少し照れくさそうな父さんを見て、俺の口は勝手に開いた。
「俺は、ふたりの子どもに生まれて幸せだよ」
「……律……!」
「っ……」
にっこりと微笑みながら、父さんと母さんの顔を交互に見て「ありがとう」と言う。
すると父さんはすぐに涙ぐみ、母さんはそれよりも早く泣いていた。
涙脆いのだ、この親は。
「うっ、うっ……まさか律からそんな言葉を聞ける日が来るなんて……うおぉん……」
「ちょ、父さ……」
「どこにも嫁に出したくないわ……ずっとこの家にいて……」
「俺は嫁というより婿なんだけど」
「ぐすん……ふぅっ……」
「父さん……」
作り話の中のシンデレラでもなく王子様でもないけど、こういうのはなんだか悪くない。
ひとは……思ってたよりずっと、あたたかくて、やわらかい。
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