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「そりゃー最初は寂しかったぜ? でもさすがにもう慣れっこよ。おまえらがここにいるのが変な感じするわ」 「慣れてもらわないと困る。まあ明日には帰るけど」 「ええーっ!」 「ええーって」  全員が不貞腐れたように次々と文句を言い始めた。それを俺と爽介は笑いながら聞き、適当に相手をする。  そうか。俺たちが東京に行くまではここで生活をするのが日常だった。  けれどいつしか俺たちの日常は東京での毎日に変わり、地元は落ち着くけれどどこかそわそわとした気分になる。  慣れは、恐ろしいものだな。  ……今だって、俺は先生を求めそうになっているんだから。 「あ、あと線香花火だけだ。みんなでやろーぜ」  気づけば花火を全て消耗したらしく、残っているのは線香花火のみとなった。  全員でキャンドルを囲むように座り、一斉に火をつける。  線香花火というのは不思議なもので、火をつけて燃え尽きるまで喋る気分になれない。一度火をつければ、燃えているのをなんとか長持ちさせたいという気分になる。  どうせ落ちてしまうのに、火花が咲いているのを見ている瞬間を少しでも長引かせたくて。 「あーっ、落ちた!」 「うわ、俺も」 「俺まだ残ってる! ほらほら……あーっ!」  次々と他の奴らの線香花火が落ちていく中、俺のだけは中々落ちずに火花が咲いていた。  何色と表せばいいのかよくわからない色の火花がぱちぱちと音を立てて燃え、他の奴らも俺もその線香花火を無言で見つめる。  そう、そうやって咲き誇ったままなら、この時間がまだ続いてくれるから────  と、無駄なことを考えたからか呆気なく線香花火は落ちていった。  あー、落ちちゃったか、と思って役目を果たした線香花火をバケツの中に入れる。 「すげー! 俺ここまで線香花火残ってるのって初めて見たかも」 「俺も。律すげー」 「いやいや」 「よしっ、もう一回だ!」    また次の線香花火が配られ、もう一度火をつけた。  そうか、終わってしまったら繰り返せばいいのか。何度も、何度も。  そうすればまた同じ時間がやってくる。  もっと続けと願う前に。  今度は俺の線香花火が最初に燃え尽きてしまい、爽介が持っていた線香花火が一番長く持った。爽介はどこか勝ち誇ったような顔をしており、その顔を見てつい笑ってしまった。 「お、あと一回分かな」 「次こそ俺が最後に残る」 「いーや、俺だな」 「最初に落ちた奴、ジュース奢るか」  そんな誰かの声で全員に気合いが入り、たかが線香花火に全員が本気を出そうとしている。ならば俺も、それに便乗しようか。  せーの、という声に合わせて火をつけ、最後の線香花火が始まった。

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