131 / 148
6-30
お祭りだからか、ふたりはいつもよりもテンションが高いように思えた。
勿論俺も、普段に比べたら舞い上がっている。
まさかふたりと花火大会に来れるなんて思ってもいなかったから、少し嬉しい。
思い出はいくらあっても足りない。
「あ、これ美味しい」
「ほんとだ」
「あーん」
「あー」
俺がチョコバナナを食べ終えたタイミングで優馬が俺の口元にポテトを持ってきたから素直に口を開け、食べる。
コンソメ味なのか、少しジャンクな風味もするけれどお祭りらしい味付けで、美味しい。
「美味しい」
甘いものを食べたあとだから、余計美味しく感じる。
俺が微笑んでいると爽介と優馬も顔を見合わせてにっこりと微笑んでいた。俺はふたりの息子かよって。
まあふたりが親なら悪い気もしないか、なんて死ぬほどくだらないことを考えてニヤニヤしていると、まだお腹が満たされない優馬がたこ焼きの屋台を発見した。
「俺たこ焼き買ってくる」
「はいよ」
るんるんと効果音がつきそうなくらい軽い足取りで優馬がたこ焼きの屋台へと向かっていった。
その間ポテトを食べていると、爽介が粉がついた指をティッシュで拭いながら俺に言った。
「……麻橋先生……」
「……!? ……っ、? !?」
「そんな動揺しなくても」
急にその名前を出されて、思い出すのは地元に帰ったときのこと。
一緒に新幹線で帰ろうと約束していたにも関わらず、俺は先生の車で一日早く帰ってしまったことを根に持っているみたいだ。
仕方ないと思う。
俺だって逆の立場だったら根に持つし。
勿論すぐに電話で謝ったけど……そのときは怒っているようには見えなかったんだけどな。
「まじでどういうこと? 目の前で誘拐でもされたのかと思った」
「……はは……」
「別にどんな関係でもいいけど。律が幸せならそれで」
「え、なんか誤解してる」
「……え、付き合ってるんじゃないの?」
「いや、付き合ってないけど」
「……はっ!?」
まさか俺と先生が付き合っていると思って言ってたのか? いや、ないない。
爽介が大袈裟なくらいに大きな声で驚き、俺は慌ててそれをポテトで塞いだ。まあ、間に合わなかったけど。
「付き合ってないのにわざわざ東京から……? ええ……?」
「……まあ」
「なに、なにが起こってるんだ。危険なことに巻き込まれてたりしないよな?」
「うん」
危険なことに巻き込まれてたらここに俺がいるわけないだろ、とばかりに頷く。
爽介の頭の中は混乱しているようで、混乱させているのは俺なのにどうしたんだろうなんて思っている時点で俺はおかしいのかもしれない。
「おっまたせー! 熱々だよ」
「お、ああ、おかえり」
爽介はなんとか平静でいようとしているんだろうけど、俺からしたら丸わかり。
優馬は鈍感だから気づいていないんだろうけど……
「律って猫舌だっけ」
「いや、そうでもない。いただきまーす」
爪楊枝が刺さっていたので、爪楊枝を取って大きめのたこ焼きを一口で頬張る。
とろりとたこ焼きが解れ、思っていたより熱かったけどその分美味しくて、つい頬が緩んでしまう。
「ん、はふ、おいひ」
「可愛いッ……!!」
ともだちにシェアしよう!