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「あ、先生のやつ抹茶なんだ」
「食う?」
「うん」
「はい」
先生の食べかけが差し出され、俺は躊躇うことなくそれに齧り付く。
あ、抹茶も美味しいな、なんて思っていたけれど、さすがに今のは爽介が黙っていられないらしくて。
「……ええ……」
黙っていられないと言っても、困惑の声を出すだけだったけど。
それを見かねて優馬が爽介に「俺の食うか」と言い、混乱した爽介がそれに齧り付くという謎の行動をしていた。
おまえらもやってるじゃねえか。仲良いな。
自分の分の大判焼きを食べていると、にやにやと近藤先生が俺と麻橋先生を交互に見つめてきた。
「随分距離が縮まったみたいだねえ」
「んぐっ」
エロ親父のような声でそう言うものだから、つい噎せそうになった。
それは麻橋先生も同じのようで、じろりと近藤先生のことを控えめに睨みつけていた。
さすがにこう言われることは予想していなかったみたいだ。
「まあ、ちょっとはな」
「ふたりの出す雰囲気がエロいよ」
「それは浴衣着てるからってのもあるからだろうが」
「たしかに」
「納得するんですね……」
雰囲気がエロいと言われましても。
別になにもやることはやってないし、あれから個人的にふたりで会ったりはしていない。
会うことがあるとしても校内でばったり会うくらい。やりとりも電話を数回した程度だし、どれも十数分で終わる短いものだ。
けれど、確実に距離は縮まったような気はしている。
これは勝手な俺の考えだけど。
「てか、先生たち。よかったら一緒に花火見ましょうよ」
「お、いいな」
「じゃあ他にもなにか買おっか〜。奢るよ。柊羽先生が」
にっこりと近藤先生が微笑みかけ、対する麻橋先生はこの野郎とでも言いたげな様子で微笑んでいた。
俺たち高校生はまだ腹が満たされていないため、焼きそばや唐揚げ、りんご飴などを買ってもらい、よく花火が見える場所まで移動した。
運良くスペースが空いており、そこに近藤先生が用意していたレジャーシートを広げて座る。
男五人で座っても全く窮屈に感じない広いスペースが取れてラッキーだな。
「はあ……おまえら満足か」
「はい!」
「出世したら返せよ」
「えー、ばっしー大人気なーい」
いくらお祭りとはいえ、五人分の食べ物となると結構なお金を消費したはずだ。
けれど先生は一切なんとも思っていない様子で、それどころか少し嬉しそうな顔をしていた。
嬉しそう……というよりは、楽しそう?
なんだか先生のその表情は初めて見る気がして、少しの間目が離せなかった。
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