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 今年の夏休みはいつもよりもずっと色濃かったな……なんて思いながら花火を見つめていると、りんご飴を持っていない方の、身体を支えていた手の上に麻橋先生の手のひらが乗っかった。  偶然、ではなく、故意で。    思わず先生の顔を見ると、内緒、とばかりに口元に人差し指を立てて微笑んだ。  その刹那、花火が打ち上がっていく音が瞬く間に聞こえなくなった。    風で揺らぐ先生の髪先が、目ではっきりと追えるくらいにスローモーションに見えた。  ────先生の、綺麗な形をした瞳に美しく咲き誇る花火が色濃く映し出されていて、顔は色鮮やかな光に照らされて。その瞬間だけ時が止まったかと思うくらいに、それは綺麗すぎて。  ゆったりと口角が上がり、表情が和らいだかと思えばその顔のまま空を見上げていた。  先生の顔に全てを奪われたような気がして、繋がれた手に意識なんて向かなかった。  気づけば花火は最後のひとつが打ち上がり、音の余韻を残したまま終了した。  周りのひとたちが拍手をするのに倣って、俺たちも拍手をする。  隣で爽介と優馬が「生の花火ってやべーな」と興奮気味で話しているにも関わらず、俺はどこか落ち着いた頭で先程の先生の表情を思い出していた。  瞳に焼き付いて、跡形を残して離れてくれない……  それくらい、さっきの先生の顔は綺麗すぎた。      こんな、夏休み最後ですごい威力のものを残してくれたな……と、ぽかんと空を見上げたまま思う。   「おーい」 「あっ」 「そんなに花火綺麗だった? 珍しいな」  よそ行きモードの先生に声をかけられ、そこでようやく撤退しないといけないことを思い出し、立ち上がった。  今でこそよそ行きの先生だけど、明らかにさっき見せた表情はよく俺の前で見せるものだった。  それは、いくら俺でもわかりやすすぎる。  レジャーシートを畳む近藤先生と爽介を見ていると、隣に麻橋先生が立つ。 「……今年の夏休みは、楽しかった?」  俺に、そう質問してきた。  そんなの────答えは、決まっている。 「楽しかった、です……」 「……そう」 「たぶん俺は、この夏休みを一生忘れない」  そう言うと、先生は満足気に微笑んでレジャーシートの片付けに加勢した。  優馬にからかわれ、けらけらと笑いながら爽介に助けを求めている先生をふっと笑みを零しながら見つめる。  去年の夏休みのことなんてもう思い出せないけれど、今年の夏休みのことは、きっと何年経っても絶対に覚えている。  ……そんな、気がした。

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