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「おかえり、にいさん」
「ただいま。ほら、弟の律。毎日こうやっておかえりって言ってくれるんだ」
「へえ。初めまして、律くん」
「かわいー」
ああ、これは夢だ。
死んだはずの兄さんが生きている。
俺の視線も、今と比べて随分小さく感じる。4年前……いや、もっと前だ。兄さんとその友達が制服を着ているということは、7年前、だろうか。
たぶん俺は小学生で……そうだ、兄さんは高校三年生だ。
地元で一番の進学校の制服を着ていて、ふたりの友人を連れている。仲がいいと言っていたから、時々俺の家にやってきて一緒に勉強をしているんだ。
友達の名前は……なんていうんだっけ……
「ーーとーーは律に会うのは初めてだっけ」
「まあね。写真で見るより全然あどけなくてかわいい」
ああ、そうだ。ーーさんって言うんだった。
かっこいいひとが俺の頭に手を伸ばし、少しだけ乱暴に俺の頭を撫でた。
それを、もうひとりの優しそうなひとがにっこりと笑いながら見ている。兄さんも、同じように。
「ーーはずっと律のことを直接見たいって言ってたもんね。どう?」
「いい男になりそう」
「たしかに。律くんはお兄ちゃんと違ってイケメンだね〜」
「ちょっと、ーー。それは僕に対して失礼だろ」
玄関に立ったまま靴も脱がずに俺のことを話しているなんて、変なひとたちだ。
しかも楽しそうに、にこにこと笑って。
……羨ましいな。
幼い俺は、自分よりもずっと背が高い高校生を見てそう思った。
俺に一通り構ったからか、ようやく靴を脱いで家の中へと入っていった。律くんもおいで、と言われたからその言葉通りに歩幅が全く違う足ですたすたとついていって、到着したのは兄さんの部屋。
相変わらず勉強道具だらけ。
「律、宿題は?」
「もう終わらせたよ」
「偉いな。さすが僕の弟」
それは、幼い俺に対して兄さんの口癖だった。
俺も兄さんも、互いが兄弟であることに誇りを持っている。そのことは、幼いながらにもちゃんとわかっていた。
夢、だからだろうか。俺が言いたいことが言えず、物語のように次々と進んでいく。
俺の意思とは関係なしに言葉を発し、身体が動く。
なんとも、奇妙な感じ。
……それよりも、さっきから兄さんの友達の顔がぼんやりしすぎてよく見えない。
名前もよく聞き取れないし……
あれ、なんだか視界が曇って────
「っっ!!」
勢いよく起き上がり、夢から覚めた。
目を開いた途端、照りつけるような朝日が視界に入る。
夢から覚める感覚というのは、こう……水深が低いところから無理やり浮き上がるような、不思議な感覚だ。
起きても視界がぼやけていることに気づき、どうしてだろうと目を擦ると寝ながら涙を流していたらしく。
目からぽたりと雫が落ちていった。
……夢の中の俺は、幸せだっただろうか。
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