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と、言いつつも誰がいいんだろうなあと考える。
クラスのひとの名前なんて覚えてないし、女子に興味ないから誰の名前もわからない……というか、名前と顔が一致しない。
いっか、適当に望月さんって書いておけば。
今更あの子に興味なんてないけど、なんとなく浮かんだのがその名前しかなかった。
俺の字だとバレないようにわざと筆跡を濃くして雑に書き、回収ボックスを持ち歩く吉水を呼んでその中に入れた。これでオッケー。
……俺の隣を歩くときにやたらとボックスを持っている手が震えていたのは見ないことにした。
他のひとは誰の名前を書いたんだろう、とぼーっとしながら考えていると、爽介につんつんと肩をつつかれた。
「律、誰の名前書いた?」
「えー……内緒。爽介は?」
「俺は白岡さん。彼女、ファンクラブがあるらしいから一番適任かなって」
「白岡……?」
「あそこに座ってる、ほら」
爽介が控えめに指をさした先に座っているのは、胸下まで伸ばした長い髪を控えめに巻いている女子。
ああ、あの子か。
ファンクラブがあるなんて、余程人気なのか。知らなかった。
あまり関わってこなかったからなあ、と思って見るのをやめる。爽介もあの子自体がいいなと思ったわけではなく、あの子の周りの環境から見てあの子にしとこうと思ったんだと思う。
ファンクラブがあるのであれば、その会員からの支持もあるだろうから最優秀賞まで近づく可能性が高くなるから。
爽介と雑談していると投票を集め終えた吉水が先生と一緒にメモをしながら集計している。
丁度集計し終えたタイミングで俺と爽介の話も終わり、吉水がすっと立ち上がった。
「投票の結果は白岡さんとなりました! 拍手っ!!」
さっきまでずっと深刻そうな顔をしていたくせに、急に顔が安心したようにだらしない表情をした吉水に合わせ、ぱちぱちと適当に拍手をする。
対する白岡さんは少し照れ臭そうに微笑んでいて、彼女の友達と思われる子たちにおめでとう! と言われていた。
そのまま妖精役とマレフィセント役、オーロラ姫の両親役も決まって裏方まで決定した。
とりあえず今日は配役だけ決めて次の文化祭の準備時間に出店係と演劇係に分かれるらしい。
「じゃあ、演劇に出る子たちはある程度台本を読んでおいてね! 以上っ!」
吉水のその言葉でクラスメイトが途端に浮ついたように騒がしくなる。
学生らしい文化祭というイベントに、楽しみにしている自分がいることに驚いた。
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