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第二章・7
放課後、美術室はざわめいていた。
なにせ、あの結城 希がモデルとしてやって来たからだ。
1年生の女子など、きゃあきゃあ言って騒いでいる。
誰もが、彼の美しい姿をスケッチしようと鉛筆を手に取った。
だがしかし。
「僕は、白穂のモデルになったんだ。彼以外の人は、僕を描かないで欲しいな」
高飛車に聞こえるセリフも、希が言えば柔らかいお願いに響いてくる。
そして、言うことをきいてしまうのだ。
部員が遠巻きに見守る中、希は白穂に訊ねた。
「僕は、どんなポーズを取ればいいのかな?」
「希の、好きなようにしてくれないかな。一番、リラックスできるポーズ」
「白穂は、優しいね。ありがとう、僕に気を配ってくれて」
「え、いや、その。優しいだなんて」
希の一言一句に照れながら、白穂は木炭を手にした。
今回はスケッチブックではなく、本格的にカンバスに描く覚悟を決めていたのだ。
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