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第二章・8
F30のカンバスに、白穂は希を描いてゆく。
椅子に掛け本を読む、いつもの彼の姿を。
描きなれたはずの希と、読書ポーズ。
だのに、どうしてこんなに新鮮に感じるんだろう。
白穂の心は全てから解き放たれ、その手は軽やかに滑った。
たちまちのうちに、カンバスに希の姿が浮き出して来る。
部員たちは、息を呑んでいた。
沖のやつ、いつの間にあんなに巧くなったんだ?
そんな声が、漏らされた。
それも耳に入らないくらい、白穂は創作に没頭していた。
白穂の手を止めたのは、意外にも希の声だった。
「ストップ、白穂」
「え? あ、うん」
「ちょっと疲れたよ。今日は、これくらいで勘弁してくれるかな?」
「あ! ごめん。ごめんね!」
見ると、時計は18時になる5分前だ。
1時間以上、休憩も取らせずに希にモデルをさせたことを、白穂は必死で謝った。
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