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第五章・5
月日は流れ、白穂は無彩色の日々を送っていた。
市民展に出品した作品『読書する少年』は、見事に教育委員会賞を受賞した。
美術部始まって以来の、快挙だ。
だが白穂は、浮かない顔だった。
「モデルが良かったから、獲れた賞だよ」
自虐的に、そんなことを言った。
白穂は、笑わない少年になっていた。
絵を描くことだけが、彼の心の慰めだ。
それだけが、遠い地の希と自分を繋ぐ架け橋のように感じていた。
電話もメールも、ラインもしない。
それが、希の願いだったから。
『君の声を聞くと、絶対に心が揺らぐ。メールもラインも、決心を鈍らせると思うんだ』
それに、とも言った。
『今の君に、僕は邪魔者だよ。美大に進学するんだろう? 脇目もふらずに、絵の勉強をして欲しいんだ』
希の言う通りに、白穂は毎日絵を描いた。
ただただ、毎日絵を描いた。
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