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第五章・8
白穂の父は、今夜も遅かった。
絵画教室の生徒の一人と深い仲になっているらしく、午前様になることもしばしばだ。
αに生まれ、才能に恵まれたが、妻に先立たれてからは自堕落になっていた。
そんな父に、廊下で立ったまま白穂は切り出した。
「お父さん、大事な話があるんだ」
「なんだ、まだ起きてたのか」
少し、酒の香りのする父。
ゆるゆるに緩んだ精神は、次の白穂の言葉で途端に緊張した。
「僕、赤ちゃん産みたい」
「何?」
「できたんだ、赤ちゃん。だから、産みたい」
「な……、何を言ってるんだ? 相手は、誰だ!」
「僕のモデルをしてくれてた、男子。時々、お父さんも会っただろ?」
「あの、転校した結城くん、か」
覚えててくれたんだ、と白穂は少しホッとした。
顔も知らない相手では、猛反対されるに決まってる。
だが、父の声は険しかった。
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