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第六章・2
「もしもし?」
「ごめん……、白穂?」
「希」
変わらない、穏やかな声。
数ヶ月の時が、あっという間に埋まってゆく。
「僕の方から電話しないで、って言ったのに、ごめん」
「いいんだ。僕も……、報告したいことがあったから」
どうしても、白穂の声が聞きたくなった、と希は言った。
「実は、母さんが手首を切ったんだ」
「ええっ!?」
「僕が早く発見したから、助かったんだけど」
「希……、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃない。だから、君の声が無性に聞きたくなって。ごめん」
「気にしないでよ。そんな時は、いつでも電話して。お願いだから」
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