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第六章・3

 希が傍に居ることで、失恋の痛手から立ち直ったかのように見えた母。  だが、その明るい素振りの内側では、未だ癒えない傷が血を流していたのだ。 「結局僕は、何の役にも立っていなかった、ってことだね」 「そんなこと、ないよ! むしろ、今からじゃないのかな!?」 「今から?」 「そう。今から、ホントに希の存在はお母さんの助けになるんだ、って思う」  ありがとう、と希は鼻をすすった。 「白穂は、やっぱり優しいね。嫌な話聞かせて、ごめん」  電話向こうの希は、泣いているようだった。  だが、精一杯声に張りを作って、白穂に問いかけて来た。 「僕の方ばっかり話しちゃって。白穂は? 報告したいことって、何?」 「えっと……」  白穂は迷った。  今ここで、赤ちゃんができた、なんて話したら。 (希は、混乱するだろうな) 「実は、市民展で教育委員会賞を獲ったんだ」  白穂は、子どもの話題を避けた。

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