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第六章・5

 産む意志を学校サイドに伝えたところ、案の定退学を求められた。  退学の理由も表沙汰にしないで欲しい、と念を押された。 「まぁ、生徒が妊娠した、となると、PTAが大騒ぎするだろうからなぁ」 「呑気だね、お父さん」 「そういうお前は、どうなんだ。学校に未練はないのか?」 「僕は、絵が描ければそれでいいんだ」  希のいない学校に、白穂は何の魅力も感じていなかった。  さすがは俺の子だな、と父は妙な所で感心した。 「アトリエは、自由に使っていいぞ。でも、適度な運動も怠るなよ」 「うん」  白穂は、静かにお腹をさすった。  お父さんに、話した。  学校にも、話した。  あとは、希だけだ。 (いつ、言おう。タイミングが解らないよ) 「困ったね」 「ん?」 「あ、今の赤ちゃんに言ったんだ」  そんな白穂を、父はいたわりながら自動車に乗せた。  白穂は、高校を退学した。

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