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第六章・6

「結城くんに言いにくいんなら、お父さんが代わりに伝えてやってもいいんだぞ?」  静かなアトリエで、父は絵筆を動かしながらそう言った。 「ありがとう。でも、これは僕の口からちゃんと告白しないと」  モデルは、白穂だ。  素裸になって椅子に腰かけ、手で大切にお腹を包みながらつぶやいた。  白穂は、妊娠5ヶ月を迎えていた。  もともと細身の体に、張った腹部が目立つようになっていた。  父は、そんな白穂の姿を油絵で表現していた。  妊婦のヌード絵画は生々しい現実味の裸体、という理由から長年描かれて来なかった。  それがΩ男性ともなると、なおさらだ。  白穂の父は、そこをあえて描き始めた。  性器は影で塗り込めて見えなくしたが、乳房のない薄い身体は男性とすぐに解る。  タブーに挑戦したい、との気持ちもあったが、我が子の愛おしい姿を絵に残しておきたい情が勝っていた。

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