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第六章・7

「終わろうか。体が冷えたらいけない」 「うん」 「一通り彩色は済んだから、後は写真で充分だ。もう、モデルはしなくてもいいぞ」 「解った」  服を着ていた白穂が、ふと動きを止めた。 「どうした?」 「今、赤ちゃんが動いた」  お腹をさすって微笑む顔は、まさに聖母のようだ。  父も、笑顔になった。 「そうだ。結城くんに、その胎動を触らせてやるといい」 「えっ」 「お父さんも、お母さんのお腹にお前がいる時、そうさせてもらったよ。幸せな気分になった」  そうしたら。 (そうしたら、希は祝福してくれるかな。赤ちゃんのこと、喜んでくれるかな)  父の言葉に背中を押され、白穂は震える手でスマホを持った。

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