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第八章 この時を止められたら

「おじいちゃん、遊ぼう!」 「お父さんか、パパと遊びなさい」 「お父さんはパソコンしてるし、パパはお父さんをお絵描きしてる」  やれやれ、と白穂の父は頭をかいた。  40代でおじいちゃん、と呼ばれる身になろうとは。 「じゃあ、お絵描きしてるパパを、おじいちゃんと一緒に描こう」 「うん!」  スケッチブックとクレヨンを持って、希と白穂の息子・理乃(りの)は希の書斎へ走った。  ゆっくりと、父はその後を追う。  家族だけで、二人はささやかな結婚式を挙げ、白穂は元気な男の子を産んだ。  希の母は入院先のデイケアで知り合った男性と意気投合し、再婚した。 『自死までしようとした人間が、好きな人ができた途端に快方に向かうんだ。恋の力って、偉大だね』 『恋をしようという気持ちが芽生えるまで支えたのは、間違いなく希の愛情だってことも、忘れないで欲しいな』  そんな会話をした、希と白穂だった。

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