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第2話 急がば回れ

「それにしてもお前どこから湧いたの」 湧いた、と。丁寧とは程遠い物言いも、さらりと受け流して応える乙慎(いつしん)。 「おや、ご存知ない? ちょっと向こうにあるんですよ」 隠し通路がね――と声をひそめる。 「そこから行けば捕まえられるかなと思って。大当たりです」 腕組みをし、うんうん、と頷く乙慎。してやったりと言わんばかりのその顔か、はたまた言い方に気が障ったのか琉依が口を尖らせた。 「捕まえるってなんだ。今日はまだ何もしてないだろうが」 「ま、それに免じて近道でも教えて差し上げましょうか」 「近道ねぇ、まだやってたんだ。その、探索?」 小さく畳まれた紙片をもつ手を見やる琉依。何やら色々と書き込んであるが、本人しか分からないのだろう。 黒々とした書き込まれたそれは、暗号並である。 「これだけの無駄の数々ですよ? 更地に出来るなら即、実行したいところですけどねぇ、それができないなら最短での道をとるまでのこと。ついてきてください」 言ったそばからずんずんと進む上背のある従者に、くっ付いて歩く主人であった。 ――近道? 最短、と期待させた割にはそれなりに歩かされているので、どこが近道なのかと問い詰めたくなるのを堪えて琉依は不承不承、その後について歩く。 そんな琉依の言いたいことなどお見通しとばかり、調子の良い声を転がすように乙慎が(うそぶ)いた。 「ありますよ? 半地下で排水溝も敷かれているので、どろどろになりたいのなら絶好の通路が」 「結構です……」 もうどこを歩いてるのか皆目検討もつかなくなる中、乙慎は朽ちかけた木戸を押す。 「もうすぐですから。ほら頑張って」 ぎぃっと、見た通りに傷んだそれは建付けの悪そうな音を伴い押されていく。戻ってもしばらく軋むところを見ると、相当に古いのだろう。古びた木戸を通った二人を出迎えたのは、広大な美しい庭だった。 「へぇ、ここに出るのか」 この宮城において庭と呼べる物はいくつもある。 数もさることながら、構成する要素は多く、規模、様式、趣向、植栽、挙げればきりがない。千差万別、唯一無二、それぞれにしかない趣きがある。 「さすがに見覚えはあるでしょう?あなたの居室に最も近いのがここです」 「それだけあって一番だだっ広いのが難点だけどな」 ゆるゆると言葉をかわし、苦笑しながら歩き出した琉依の耳元でふいに、しゃん、と何かが(かそけ)く鳴った。

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