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第3話 逆光

「あっ」 咄嗟に左の耳に手をやると、狼狽えながらその場にしゃがみ込む。 「待て!慎動くな!」 忙しなく足下の草をかき分け始めた。 「依、いつまでこうしてれば良いんですか?」 何事かと、問う乙慎。傍観するつもりもないのだが、目標を知らないことには手伝いようもない。 「いや、これがさ。左の方なんだけどひとつ落ちたみたいで」 もとはこれ、と琉依が右耳に煌めく耳飾りを乙慎に見せた。 陽光にいっそう輝く地金は、夕日の赤銅(しゃくどう)と夜明けの薄明(はくめい)を織り上げたように複雑に色を変える。その色合いは繊細に連なり、揺れるように作られている。末尾には、小さな真珠と雫のように研磨された青玉がひとつに連なる。それが二連あるのだが、左の飾りにはそれが一連しか残っていなかった。 「いきなり落ちるかな……もう。なんか縁起悪いし、どこに……」 「依にしては珍しい形をつけてますねぇ」 乙慎もしゃがみ、探し始めてくれる。 人の手が作ったその装飾品はきらきらとして、繁茂する自然物とは似つかわしくないものだ。しかし、何しろ小さい。こうも紛れてしまうと、範囲を広げて丁寧に調べていくしかない。 「下がる形のはあまり好きじゃないんだけどさ。今日は客が来ると言ってしまったばかりに、どうしてもこれをつけろと……うわぁ、無い……」 無くすと嫌だからいつものでいいのに、と少し離れたところも探しながらうんざりとこぼす琉依。 「……客、ね」 その声音を発した口を、乙慎はぎくりと塞いだ。 言葉に危惧したのではない。およそ自分のものとは思えない声に感じられたからだ。 そこまで大きくなかった、とは思う。 しかも、この距離。 聞こえてはいない、はずだが。 張りつけたように塞ぐ手を下ろせないまま、そろりと目だけで伺う。その先には、先刻と変わらず黙々と捜し物に徹する琉依の姿があった。 「つけさせといてな、お高いですよ、なんて言うんだぞ? 勘弁してほしいわ……」 見届けて、溜め込んだ息が、安堵するように指の間から長くこぼれた。 そうして彼はきらりと主張するそれに、ようやく気づく。金、白、青が成す三色の宝玉。琉依の捜し物を拾い上げ、乙慎は立ち上がる。 歩を進める。その度にさく、と草を踏む音も主は気にとめることもない。手の中の小さな宝玉を、懐に落とす。近づく距離は一足長ごとに短くなる。 そこまで、三歩。 あと、二歩。 もう、一歩。 名を呼ぶ。 「琉依」 「お、あった?」 短く言い終わるよりも、僅差だが乙慎の動作が早かった。 「ちょ、っ……」 降ってきた呼び掛けに応えようと、屈めた背を伸ばすところで、琉依は押された肩から均衡を崩す。背後の巨木にもたれ掛かるように座り込んでしまったところに、両肩に降ってきたように据えられる手。 その手から先をを見上げれば、乙慎の顔が真上にあった。 不意に強い風が、辺り一面を一斉に揺さぶっては逃げ去るように吹き渡った。木漏れ日が(まだら)な影を落としながら、葉擦れとともにざわめく。 見上げてもその先の表情は判然としない。きつく射し込む日差しで暗く落ちる影が、隠しているせいで。

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