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15 王道少女漫画
全部これでよかったんだ。
俺は高校三年、最後の大会でマラソンを頑張って、あと、中の下くらいの成績をどうにかこうにか今からでももがいて、大学行けるように頑張る。あとはいつもどおり、平々凡々な青春を陸と共に送るだけ。
市井は黄色い声援浴びながらサッカー頑張って、夏が終わったら、あとは成績優秀だから進みたい大学を気軽に選んで、そんで……俺の思う少女漫画みたいなキラッキラな恋愛を、キラッキラな青春をサラサラ女子と謳歌するだけ。
これでよかったんだ。
うん、これが一番しっくりくる。だから、これでよかったんだってば。
うんうん、これで……。
「……」
よかったはずなのに。
「柘玖志、お前、スマホの電源切ってたろー」
「……陸」
だって、ないけど、絶対にないけど、ないに決ってるけど市井から電話とかメッセージが来ちゃうかもしれないじゃん。もう話すことなんてないと思うけど、さ。あとは、あれかな。今までピアノ付き合ってくれてありがとう、的な? 感じにメッセージがきちゃうかもしれないから、さ。
「今日は……部活なんだっけか? 柘玖志は」
「んー」
「おーい。柘玖志―」
「んー……」
でも既読もなんもつかないから、微妙な感じかもね。けどさ、既読スルーするしたらすっごい感じ悪いし。既読つけちゃったら、ちゃんとお返事しないとだし。たぶんね。
だから思わず電源切っちゃったんだ。俺、漫画は基本紙媒体ですから。電子書籍はしませんから。やっぱ、あの紙で読むっていうのがね、いいわけです。昨日は、ちっとも読まなかったけど、真っ暗になったままのスマホ画面をじっと見てたりしてたけど。
「朝とは思えないテンションだなぁ」
「うるさいなぁ」
「あ……市井だ」
「!」
ガタ! ガタガタ! ガタン!
って、めちゃくちゃ慌てたせいで膝を机の脚でめっちゃ打ったし。
「柘玖志……お前さ」
あ、肩も打ったっぽい。なんか痛い。
「すげぇ俊足じゃん。超早いんだけど。机の下の避難。避難訓練の時と全然違うな」
思わず机の下に隠れた俺の目線と同じになるように、陸が屈んで、心底驚いた顔をして見せる。
もう、なんだよ。人のことおちょくりやがって。
「陸、お前ね……」
「いや、市井がいたのはホント。もう通り過ぎたけど」
通り過ぎたんだ。通過スルー、したんだ。
「ふ、ふーん」
「……何、ケンカでもした?」
「……してない。っていうか、別に」
「別に?」
「そ、そんなに仲良くないし」
「……」
陸がジーッとこっちを見てた。目が合うと、まるで名探偵が犯人と思わしき人物の胸のうちでも見透かすように眉をひそめて、目をほそーくした。
けど、目をどんだけほそーくされたって、きっと陸にもわからないよ。
「だから、別に……」
だって、俺自身、全然胸のうちの、このもやっとしたものがなんなのかよくわかってないんだから。
陸が言ってたっけ。
市井は俺と話してるとこを見られるの、なんか嫌そうっていうか、俺と話してるとこを周りに隠そうとしてる感じがしたって。
「えー、そろそろ期末試験だ。おーい、あとホームルームだけなんだ、話くらい聞けー」
つまりはそういうことだ。俺、地味だし、平々凡々なわけだから、あんまり一緒にいるとか知られなくないよね。え? 市井ってあんな地味な友だちもいるんだって、なるもんね。そんなふうに人を区別しなさそうだけど。それはね、わかんないじゃん? 大人じゃないけどさ、高校生には高校生の色んな不都合なこととか、しがらみとかあるわけでさ。人付き合いとかも色々難しかったりとかさ。
「部活動禁止期間に入るわけだから」
あるわけだから。
「しっかり勉強しとけよー、もうお前ら、進学希望で進路出してる奴はそれこそ試験重要だぞー」
「……えっ!」
思わず、声、出ちゃった。
「んー? 白石、どうかしたか?」
「い、いえ! すみません!」
「そうか?」
だって、部活動禁止期間とか、すっかり忘れてたからさ。
部活動が試験前の一週間はしちゃいけないことになってる。そしたら、きっと音楽室とかもさ、合唱部に吹奏楽部も使えないんだから、そんなのハンドフルートは部活動ですらないから確実に使えない。
そしたら市井とはもう……。
って、別に、もう俺ピアノしないんだってば。
期末が終わって、あとはテストの返却が土曜に合って、それで終了。あとは、夏休み。
けど、もうその次の練習は俺じゃないから、これで、俺は――。
「じゃあ、これでホームルーム終わりだ」
もう――。
「きりーつ」
会わないんだ。
「気をつけ、礼」
会えないんだ。
市井に。
って、別に用事ないし。何度考えたって同じことになるのに、何を、もやってるんだよ。全部これでよかったんだってそう思ったじゃんか。なのに、なんで。
「柘玖志」
何を一日中。
「おーい、柘玖志」
考えてんだ。
「オオカミ君の作者さんが新しいイラストツイッターで上げてたぞー。お前、スマホの電源切ってるからわかんないんだろー」
ずっと、何、考えて。
「ったく」
市井のことばっかり。
「あ、市井だ」
「!」
思わず、咄嗟に。
「……白石」
机の下に隠れ……られなかった。二度目の避難はできなかった。
「な、なんでっ」
ホームルーム終わるの早くない? だって、うちのクラス終わったばっかだよ? Aってそんなに早いの? 早すぎじゃない? なんで、市井がここに。
「ちょっといいか?」
なんでここに市井がいんの。
「少し、話したい」
なんで、俺、今、王道の少女漫画みたいに手を引っ張られて、イケメンにさらわれてんの?
「えっ? ぁ、市井?」
なんで、市井が俺のこと連れ去ってんの?
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