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19 ただいまテストの準備中

 期末試験の前、一週間は部活動が一斉に禁止になる。普段なら部活へ行く人もいれば、帰る人もいて、それぞれにバラバラなんだけど、この一週間だけはほとんどが同じ時間帯に帰る。そんな様子を、啓太を待ちながら眺めてた。  カップルで帰る人とかを注視しちゃったりなんかして。お互いのうちでお勉強会とかしちゃうのかもね、なんて思いながら。  あっちとこっちが付き合ってるとかどうとか、あまり自分には関係のないことだったから、今まで気にしたこともなかったけど。  へぇ、あれ、C組の石田さんと付き合ってなかったっけ? もう別れちゃったんだ。早っ! っていうか、別れちゃっても次があるっていうのがすごいけど。  うわぁ、あの子めっちゃ可愛い、一年生かな。あ、かっこいい子が追いかけてきた。知ってる。二年生だ。たしか野球部。へぇ、二年生と一年生のカップルとかもあるんだなぁ。絵になるなぁ。 「……ぁ」  あれ、A組の人だ。啓太と一緒にいるとこを前に見かけたことがある。ってことは、そろそろ啓太も出てくるのかな。  一緒に帰ろうって言ってたんだけど……まだ、かな。うちのクラス、今日はめっちゃ早かったんだよね。ホームルーム終わるのがさ。そんでここで待ち合わせてたから待ってるんだけど。  啓太と同じクラスの人がちらほら出てきても、昇降口を出てすぐ三段ある階段のところに一向に啓太はやってこない。  どうしたんだろう。  けっこうA組の人出てきたよ。  訊いてみる? ほら、あの人、啓太とよく一緒にいるじゃん。  あの、市井君ってそろそろ出てきますか? って。  いやぁ、でも、なんか、ぺってされそうな気がするからやめておこう。いきなり話しかけたら絶対に確実にびっくりされるだろうし。こっちにしたって、ああいう目立った人と話するのって、すっごい緊張するしさ。  あとちょっとしたら出てくるかもしれない。何か、あれば連絡来るだろぅからここで大人しく待っていよう。  なんて、思ってから五分は経過した。  そろそろ、昇降口から溢れるように出てくる人の数も減り始めた。それなのに、啓太だけは姿を見せなくて。 「…………」  もしかして、告白、とかされてたり、する? のかもしれない? ほら、だって仲良い人たちが出てきたのに、啓太だけ出てこないって、呼び出されたからとかでしょ? そろそろ期末だし、期末が終わったら、夏休みだし。夏休みになっちゃう前にーっていう、そして今日からの部活動禁止で放課後に残ってる人は少ないんだからチャンスじゃんって、勢いつけてさ。 「……」  体育館裏辺り?  いやいや、どうだろう。けっこう体育館まで離れてるから、それなら屋上? あ、でも屋上って放課後は鍵閉まってるんだっけ。じゃあ、あとは……校舎の裏側んとこ。あそこはいっつも日が当たらなくてジメジメしてるくらいのところだから。たまにドクダミめちゃくちゃ茂っちゃってて、独特なドクタミの匂いがするから、あんま人もいないし。 「柘玖志!」  ドクダミの中で告白とか、されてるのかもしれない。もしかしたら、もしかしちゃって、ドクダミにやられて、コクンって頷いちゃったりなんかして……たり。 「ごめん。俺、日直だったの忘れてて」 「!」 「柘玖志? 忘れ物か?」  色々妄想が広がっちゃったせいで、慌てて、校舎へ引き返そうとしていた。ちょうどそこに啓太が現れた。 「ううん。あの校舎裏へ……」 「校舎裏?』  不思議そうな顔をしてた。あんな不人気な場所に何を忘れたんだろうって。 「うん。あの、啓太がその……」 「?」  告白をもしかしたらされてるんじゃないだろうかって思ったんだと話すと、目を丸くして驚いて、そしてそのあと笑ってた。  いやいや、そんなに笑うことじゃないから。だってA組の人が次から次へと出てきたのに、啓太だけが出てこなかったらそりゃ不安になるだろ。期末試験前、夏休み前、今しか言うチャンスはないって思う、女子がさ。 「ないって。それにそんな告白とか滅多にされないから」 「へ? そうなの?」 「ないだろ。俺、告白されたの、今までで数回だぜ?」 「数回あるんかい!」 「っぷ、つっこまれた。柘玖志は?」 「な、ないです、けどっ?」 「一回も?」 「一回もっ!」  そこ確認しないでよ。っていうか、俺レベルになったら告白なんて簡単とか難しいとか関係ない。ただの夢の産物で、自分には絶対に起きない超一大イベントなんだぞ。 「……そっか」 「な、なんだよっ、嬉そうにして」  そりゃ、イケメン啓太には誰も敵いませんよ。 「いや……だって、それって、つまりは他のライバルは今のとこいないってことだろ?」 「……」 「ホッとしたんだよ」  本当に敵いませんよ。 「帰ろうぜ。柘玖志」  なんなんだ。そういうの少女漫画みたいなセリフをリアルで言って似合う奴なんていないはずなのに、なんでいるんだ。そんで、その少女漫画界から出てきたようなそのセリフを普通に言えちゃう、似合っちゃうようなイケメンに好かれてる俺は一体全体なんなんだ。 「あ、そうだ。あのさ、柘玖志、今、テスト前の準備期間だろ?」 「あ、うん」 「その、一緒に勉強しねぇ?」 「……ぇ?」 「もし、よかったら、だけど……うちとかで。柘玖志んち……でも」 「えぇえっ!」 「わかんないとこがあったら教えるし」 「ひょえぇぇぇ!」  これってすごいことなんですけれども。いや、啓太と付き合ってるっていうのもすっごいことなんだけどさ、それだけじゃなくて、めちゃくちゃ頭の良い啓太と一緒に勉強会とか、ほぼ男女関係なく俺は呪われそうなんですけど。すっごいありがたいご提案なんですけど。 「ぜっ………………」  是非ともって、言おうと思ったんだ。  さっきさ、帰っていくカップルを見ながら、このあと一緒にお勉強会だったりするのかなぁって思った。けど俺自身はまだこのシチュエーションに慣れていないせいもあって、自分たちもあそこやあっちと同じカップル設定なんだって驚いたんだけど。  忘れてたんだ。頭のほうも平々凡々なもので。 「絶対に、ちょっと無理!」  俺の部屋、少女漫画だらけだったってことに。

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