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28 イケてる男子の過ごし方

 絵面がすごい。  なんというか、すごい。 「…………」  無言で、オオカミ君を読むイケメンっていう絵面がすごい。  陸と全然違う。  試験終わって、ハンバーガー食べて、それからうちに来た。この前の約束のとおりに。そんで、一巻をパラパラ読みしただけだったから続き読むって。啓太が言うから、漫画を貸したんだ。そしたらさ、読み始めた。イケメンが漫画読ん出るんだ。俺の部屋で。俺もその隣で漫画読んでさ。  これが、陸だったらさ「来ました! このフラグ! はい! 回収!」とか急に呟いたり「くはー」とか「マジですかっ」とか叫んでうるさいんだけど。 「……ありがと。すげぇ、いいとこで終わった」  イケメンは無言で少女漫画を読むんだなぁ、なんて、思った。  啓太は抵抗ないのかな。少女漫画読むのって。女子じゃないのにーってさ。それに、面白いのかな。 「い、いえいえ。あの、面白かった?」 「あぁ」  だから、素直に尋ねた。 「え、ホントに?」 「面白かったよ」 「それは、よかった、です」 「……」  試験が終わって、さぁ、今日から夏休みです! っていうさ、超開放感溢れる日に、室内でまったり過ごす。俺とか陸とかにはいつものことなんだけど。けど、イケてるグループの人には、こういうのって退屈じゃないのかな。漫画読むだけっていうの。 「……」  ちょっと沈黙だったりするし。そもそも共通点とかないし。けど、ハンドフルートの練習の合間とかもっとしゃべってたような気がした。あんまり沈黙とかなかったような。試験勉強の間は、勉強してたし。休憩もあったけど、休憩の間はなんか、話してた。他愛のないことばっかだけど。  えっと、何か話したいこと。 「よ、読むの早いよね、啓太って」 「そ?」 「うん、めっちゃ早い。やっぱ頭良いからかなぁ」  俺は、ぎゃー! 来た! とか、おおおお! そうだ! いけー! とか思いながら、名シーンをもう一回みたいに前のページに戻って、浸ったりするから時間かかっちゃうんだ。 「あそこ、よかった」 「え? どこ?」 「ケンカしてすれ違って、そんで、どうすんだろうって思ってたら、廊下の角でぶつかったとこ」 「あ! うんっ!」 「その続き気になった」 「そこを! この前買ったんだ」 「あぁ、なるほど」  啓太がそれじゃあ先が気になるよなって笑った。 「……」  笑って、そんで。またちょっと会話が途切れた。 「……」  やっぱり、そんなにさ、少女漫画だからあれでしょ。恋愛物だから、そんなに面白くはないでしょ。だって、ほら、沈黙がやたらと目立つ。 「あ、えっと、啓太は? いつも、友だちと何してんの? やっぱりカラオケとか? あとは……」  なんだろう。イケメンの遊びが思いつかない。少女漫画に出てくる男子はなんか謎めいてることが多くて。オオカミ君においては部屋で難しそうな雑誌を読んでたりするしさ。この夏、これで女子にモテまくり! みたいなのじゃなくて、もっとカッコいい感じの、雑誌とか読んだり。  そう考えると謎すぎる、モテ男子の生態。 「普通だよ」  いや、そのモテ男子の普通がわからないんだってば。 「普通に、ゲームとか」 「ゲームするんだ」 「する」  おお! それなら俺も。 「あ、じゃあ、これ、一緒にやる? 俺、レースとか苦手なんだけど、これ得意。ホラーゲーム」 「あぁ」 「やったことある? ゾンビの」 「あぁ」  あんまだったかな。ゾンビとか、あんまり乗り気じゃないかも。 「けど、ホラーゲームとかだと続きものだから、あんまだよね」  なんだろう。うちにあるゲームはあんま、だったら、あとは、えっと。 「あ、それか、動画とか観る?」  啓太がハンドフルート始めたきっかけが動画だったって言ってたし、これなら、沈黙にならないで済むかも。 「この前、面白動物動画見つけたんだけどさ」 「……」 「ほら、すっげぇ、可愛いの。うたた寝してるゴリラ」  動物、あんま、かな。 「あとは……ぁ、これっ、すっごい笑った。犬の」  海外の動画なんだけど。英語がちんぷんかんぷんでさ。けど、飼い主のベッドに居座るでっかいワンコと、そのベッドで寝たい飼い主さんの攻防戦なんだと思う。ワンコが頑固でさ、てこでも動かない感じがめちゃくちゃ楽しくて。 「あはは、すげ、面白くない?」 「あのさ」  ワンコもダメだった、かな。 「あの……来週の、花火大会、一緒に行かね?」 「えっ? わっ」 「! わりっ」  ものすごく唐突な花火大会の誘いにびっくりして顔を上げた。  そしたら、めっちゃ至近距離だった。啓太が覗き込んでるってわかってなくて、あとちょっとで頭突きしちゃうくらいに近い。おでこがぶつかるギリギリ。焦点わかんなくなるくらいのとこ。  啓太もいきなり俺が顔を上げるなんて思ってなかったみたいで、びっくりして、そっぽを向いた。 「…………」  そのそっぽを向いた啓太の耳が真っ赤だった。 「ごめん。えっと、動画、犬の、だろ」 「……うん」 「タイミング間違えた。なんでもない」  イケメンとかイケてるグループとか、モテ男子とか。 「すげ、少女漫画に出てくる男子みたいに、なんか誘えたらいいんだけど」  あ、あったね。そんなのが。主人公が誘いたいのに誘えなくて、そしたら「ほら、行くぞ、花火大会」って強引に連れ出してくれんの。あれはめっちゃ萌えた。 「あんな強引に誘えねぇ」  真っ赤な耳も、花火大会のことを切り出すタイミングが変なのも、俺が思うモテ男子っぽくなくて、イケてるグループっぽくもなくて、もちろん、イケメンっぽくもない。  ないけど、啓太っぽい。 「犬とか動物の動画って面白いよな。俺もよく見る」 「一緒に行く」 「……」 「花火大会」  だから、俺もタイミングとかあんま気にしないで答えた。 「啓太と……」 「マジで?」 「うん」  啓太が小さく、とっても小さく「うわ……」って嬉しそうに呟いた。すごく小さな呟きだったけど、ちゃんと聞こえた。すげぇ、嬉しいって言ったが聞こえた。 「……」  だって、すごく近かったから。 「……」  二回目のキスが首を傾げただけで出来ちゃうくらいに近かったから。そして、手の中のスマホから、ワンコの動画の続きが音声だけ、小さく、部屋に響いた。  キス、ミー  って、言ってる。これさ、ワンコは飼い主さんのベッドを占領したかったんじゃないんだ。キスがしたくて、待ってただけで、キスしたら満足気に自分のベッドに戻るんだよ。すっごい可愛いんだ。  英語が全然ダメだったけど、今は聞き取れた。今回の期末で、八十八なんて縁起のいい数字の得点が取れたからかな。  タイミングの良さに、二人して少しくすぐったくなって、笑ってしまった。

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