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36 性徒会長さん?

 ――柘玖志としたいことがあるんだ。  俺としたいこと。  ――けど、それやるには場所、部屋ってわけにはいかないから、親もいるし。でも、ずっとしてみたかったから。  親がいるから部屋じゃできないこと。でも、ずっとしてみたかったこと。  ――やれたら嬉しい。  ヤレッ、たら……嬉しい、こと。  ――内緒。できるかわかんないから。  できるかわからないから。  お付き合いをしていてさ、キスもしてさ、ちょっとなんか大人のキスもしていてさ……そしたら、ほら、その次っていうか、その先っていうか……さ。  それってつまりは、さ。  さ。  さ。  さ。  さ……し、す、せ。 「せ………………くす、男……同士」  検索してみたらさ。 「ヒェ、ぇぇ……え」  まぁ、色々出てきてしまうわけです。自分のスマホはフィルタリングがかかってるからこういうの見れなくなってるから、家のタブレットで、こっそりとさ。今、紬と母さんが買い物に出かけてるから、今のうちにって。まるでスパイみたいに急いで、内密に、検索をかけてみたんだ。 「なんか、生物の授業とかの教科書にありそうな絵出て来た、ぁ……ぁ」  あんまり熟読してる暇がなくて、バババッと俺が見るには少し早そうないかがわしいサイトが並ぶ中、一番、ちゃんとしてそうな、その男同士の仕方を教えてくれるサイトを開いたら。人体解剖図みたいなのが出てきたし。漢字が多いし、なんか目が滑る。クラクラする。 「あ、あった」  その解剖図の下を見ていくと、やっとでてきた。 「じゅ、準備が……まぁあるよね」  だって、男同士じゃん。 「ほぐす……んだ」  そっか、そうだよね。 「ローショ、」 「ただーいまー」 「うわぁ!」  急いで、検索履歴を、えっと、ここから、タップして、履歴を……消、去しないと、早く、ほら。えっと。 「お、おかえりぃ、紬」 「……タブレット」 「は?」 「おかあああさあああああん! 柘玖志がなんかエロいの見てるよー」 「は、はあ? 見ていないってばっ、ちょ、なんだよ。紬っ、あ、そこはっ」 「…………お母ああさああああん! タブレットの履歴全部消してるー」 「違っ」  俺の初めてのスパイ行為は証拠こそないものの、普段は使わないタブレットをこっそりと使っている、のと、まっさらに全ての履歴を消去した、この二つ状況証拠により、「いかがわしいこと」を覗き見し用としていると、ほぼバレてしまった。  それでもわかったこともいくつかあるんだ。  準備が必要なこと。色々道具が必要なこと。あれじゃなくて、大人のオモチャとかじゃなくて、その、ろ、ろろ、ローションとか。  でも、もうこっそりだろうとうちのタブレットを使うのは危険極まりないので。 「よ、よお」 「おー、柘玖志、夏を満喫しとるか?」 「何その口調」 「あはは、ふるさとのじっちゃん風」  うちのじーちゃんもばーちゃんは車で十分のところに住んでるっつうの。地元密着型の我が家だっつうの。 「ま、上がれよ」 「ありがと」  もううちでは調べられない。その、あれ、男同士の、仕方。  そしたら次にそれを調べられそうなところっていったら。 「どうよ。市井とは上手くいってんの?」 「ま、まぁ、その、おかげさまで」 「よかったじゃん」  トントンと階段を上ったすぐ右が陸の部屋。そんでその扉を開けると、二列になったでっかい本棚がある。もう何度も来てるから勝手知ったるってやつだ。  で、部屋に入るとすぐに本棚がある。めちゃくちゃデカくて、うちのぬりかべが二人分、そこに佇んでる感じ。まだその本棚全部は埋まってないんだけど、これから埋めてくって言ってた。 「この前、練習に久しぶりに参加した」 「市井?」 「うん」 「へぇ、よかったじゃん。女子とか見にくんの?」 「うん。すごかった悲鳴が」 「きゃー! ってか?」 「そうそんな感じ」  しちゃいけないことだとは思うんだけど、陸のものなんだから、勝手になんてさ。 「俺、お茶とお菓子適当に持ってくるから、適当にその辺に座ってて」 「お、おー……」 「もしかしたらお菓子なかったかも。俺、昨日食べちったから。ちょっと探すわ」 「お、おー……」  むしろ大歓迎ですって内心思ってしまった。 「……」  そして何気ないフリをしながら、陸が部屋から出て行ったのを扉が閉まる音で確認をして。 「!」  いっそいでBLぬりかべ本棚に齧り付いた。あんま凄そうなタイトルじゃなくて、ホワホワ系で、ハードじゃなくて、目にしただけでクラクラしそうな画数の多い漢字が並んでなくて、えっと、できたら、高校生ものが、いいんですけど。  ざざっと目を通し、それらしきものをタイトルから予測して一冊を手に取った。  タイトルがさ、優しめなのを――。 『ほら、脚を開けよ。性徒会長さん。良い眺めだぜ』 『あ、あ、あ、あ、あぁあぁぁぁん、ら、らめぇ、そんな奥までズボズボされちゃったら、らめらの、とろけちゃうぅぅぅぅ』 『良いぜ、最高だ』 『らめらのおおおお、いやぁぁぁぁぁん』  誤字? かと思った。生徒がさ、性ってなってるから。誤字かなって。あとさ、呂律回ってないです。とろけちゃうって危惧してるけど、もうすでにとろけてます。だって、「ダメ」が「ラメ」になっちゃってるし。 「ヒェぇぇぇ……」  こ、こんなになっちゃうの? 俺も? 啓太としたら、こんな声出して、こんな顔しちゃって、らめぇぇって言っちゃうの? え? 本当に? だって、ここお尻の穴ですよね? そこ、そ……そ、そ、そ、そんなふうにされちゃって、そんな声あげちゃうんですか? お尻の穴なのに? 「それ、すっごいだろー」 「んぎゃあああああああああ!」  死んじゃうかと思った。心臓が口から鼻から耳から全部出ちゃうかと思った。 「ップ、あはははは、すげぇ驚かれた」  驚くだろ。音もなく、そんな。 「はい。お茶」  死んじゃいそうなほど驚いた俺に、陸は楽しそうに笑いながら、麦茶を差し出すと、グラスの中の氷が「カラン」って爽やかな夏らしい音を鳴らした。

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