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37 愛で

 ――初めから上手になんてできないさ。いいか? 最初なんで誰だって緊張するし、失敗することだってある。そんなの愛があれば大丈夫。きっと、必ず乗り越えられる。  愛する人を信じるんだ。  ゆっくりゆっくり愛を育てるように、ゆっくりゆっくり進めばいい。  お互いを大事に想い合っていることを二人で確認し合う行為なんだ。怖いことなんて一つもない。やましいことなんかじゃちっともないのだから、リラックスして。  何回も言うが、最初から上手くなんてできないさ。痛みを乗り越えた先に、きっとたまらなく幸福に満ちたものがお前を待ってると、俺は思う。 「…………」  ――俺、めっちゃ童貞だけどな。 「お前も童貞なんじゃんかっ!」  思わず道端で叫んじゃった。陸んちからの帰り道。そして、その声と叫んだ内容に驚いた前を歩くおばあちゃんに慌てて謝った。だって、あいつアホなんだもん。すげぇ、凛々しい顔したかと思ったら、急に経験者の如く語り出した挙句、童貞だけどなっ、って爽やかに笑ってんだもん。  ――あ、もちろん処女だぞ。 「…………処女……か」  俺もあんな風になれるのかな。っていうかさ、セックスとかさ、その。  ――あははは。まぁ、少女漫画の中でもお前夢見る系の方が好きだもんなぁ。今、あんじゃん、少女漫画でもさ過激なのって。  あるけど、なんかさ、そういうのじゃなくて、気持ちのさ繋がりっつうか、なんつうか、そういうの大事にしてる方が俺は好きなんだよ。  ――プラトニックも、プラトニックじゃないのも、愛とか恋の話って意味じゃ同じだと思うぜ。やっちゃってるから清らかじゃないとかさ、おかしいだろ。そりゃ、無理やりとかは別の話だぞ?  けどさ、なんか。  ――好きです。その気持ちを伝え合う行為だろ。 「……」  ――キスと同じだと俺は思うぜ。 「……」  ――好きな奴が笑ってくれたら嬉しいって思う。その気持ちから来てる行為だと俺は思う。 「……」  ――童貞だけどなっ。あははは。 「……だからやっぱ童貞なんじゃん」  つい心の中で愛を語る陸にツッコミを入れた。だってさ、すっげぇ、いい感じに語るかと思ったら、毎回自分童貞ですって付け加えて茶化すんだもん。  ――ちなみにな、俺のBL萌えポイントはさ、やっぱ、そこにあると思うんだ。今時、愛しちゃいけない人なのにぃみたいな禁断感ってさ、そんなないと思うわけよ。だって、男同士で恋愛することの何がいけないんだっつうの。愛に、恋に性別は関係ないだろ。このご時世にそれってナンセンスって思うわけよ。けどな? けど、だ! ここが萌えなんだよ。ここ! つまり、セックスができるようになってないのに、そこを丁寧に丁寧に変えてセックスできちゃう身体になる、そこに萌えがあるわけ! わかる? 愛でセックスするわけよ! ここに、萌えがあるわけ! 「…………愛、か」  ――ま、俺は童貞だけどなっ。 「っぷ、もうわかったっつうの」  でも、なんか、最初のさ、あの「ヒョエエええええ」って気持ちはなくなった。  俺、どっかで思ってたんだ。BLって、なんかエロ重視すぎでしょって。少女漫画みたいなピュアピュアなのが俺は好きなんだって。 「愛で……ね」  それ、好きだなって思ったんだ。  愛でセックスするっていうの、いいなって。 「よし!」  やって来たのは薬局。買いに来たのは。 「……」  必要なんだ。 「……」  俺ら男同士だから、セックスするにはさ、色々準備しないとだからさ。とりあえず、買っておこう。 「いよーし!」  コンドームとローション!  いざ、レジへ! 愛でするセックスのために!  そして、俺は、その二つのアイテムを握り締めながら、レジの行列が解消された瞬間を狙って、疾風の如くレジカウンターへと向かった。  あれ、不思議だよね。  ついさっきまで、あーんなにレジのところに並んでたのにさ、その人たちの会計が済むじゃん? そしたら、もう嘘みたいに行列しないの。誰もお客さんがいなくて、さて、じゃあ僕の方は品出しでもしますかねって思ってレジを離れた瞬間、あれよあれよとまたお客さんが会計のためにとレジに集まり出すの。あれってなんなんだろうね。みーんな同じタイミングで買い物終えるのかな。同じタイミングで「よしお会計しましょうか」ってなるのかな。  ローションとコンドームを握り締めたまま、その行列、閑古鳥、行列、閑古鳥の流れを三回くらいスルーして、ようやく確信を持って、今なら誰もやってこないっていう閑古鳥のタイミングで買い物を終えた。  そんな買い物を終えて、うちに帰って、少しだけ試してみたんだ。お尻の穴でさ、その、できるのかなって。どっちにしても本番の時には解さなくちゃいけないし。だから、その、指をさ。 「……マ、マジで?」  ちっとも入らないんですけど。指の爪の先っちょくらいでもう無理なんですけど。まぁそうですよね。入る場所じゃないもんね。こんなことを言うとお食事時に失礼します、なんだけど、出る場所だもんね。  ――頑張る君に一冊進呈したいと思う。  肩をがしッと掴まれて、まるで任務の如く託された、俺が目標とするべき境地を描いた一冊。 「……」 『ほら、跨がれよ。性徒会長さん。良い眺めだぜ』 『あ、あ、あ、あ、あぁあぁぁぁん、ら、らめぇ、こんなのズボズボされたくてたまらなくなっちゃうから、らめらの、とろけちゃうぅぅぅぅ』 『すごいぜ、最高だ』 『らめらのおおおお、いやぁぁぁぁぁん』 「だから! これじゃなくてさっ!」  お前の目指す最終ゴールはここだぜ、じゃないからっ! これ、きっと難易度最強レベルだから。こんな呂律回らない系、エッチな言葉責めとかは、本当に。 「んもー。陸のやつ」  ぽすっとベッドに突っ伏した。入らないし、なんか衝撃的な一冊を手渡されたし、内容あまり変わらないし。これ、紬に見つかったら俺はもう社会から抹消されるの希望しちゃうけど。 「……」  でも。 「愛でする……か」  愛なら、あるから、さ。ここの胸のとこにはちゃんと。だから、その時が来るのはそんなにビビってない自分がいた。

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