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38 今日の我が家はカレーです。
BL漫画だと、あーんなに気持ちよさそうにしてるのになぁ。
「らめぇ」って、ダメがラメになっちゃうくらいに、日本語がヘンテコになっちゃうくらいに気持ち良さそうなのにねぇ。
どぉぉぉ……考えても、お尻の穴で気持ち良くなれる気がしない。そもそも入らない。無理。無茶。無謀。です。
けど、いつか俺も「らめぇ」ってなるのかなぁ。
「っぷ」
ちょっと、想像しちゃったじゃん。ああんな自分。超、似合わないんですけど。なんか自分のそういうのちっとも想像できないんですけど。らめぇな自分が。
「どうかしたか?」
「! う、ううんっ」
「今日、午前が陸上部の練習だったのに、午後練見に来てくれると思わなかった。忙しいだろ」
「いやいや、俺、基本暇だから」
今日の練習も女子が見に来てた。すごくない? 練習見にさ、今日だってめっちゃ暑いのに女子が来るんだもん。
「サッカーのことはあんまわかんないけど。でも、応援してるし、啓太、かっこいいし」
練習を見に来るってすごいことだと思うけど、見たい気持ちもわかるんだ。だってさ、本当にかっこいいから。グラウンドをものすごい速さで駆け抜ける姿も、指示を出すのに声を張り上げた時の横顔も、もちろん、キックの瞬間だって。あと、これは、あれね。あれあれ、腹チラ見せのTシャツで汗拭う系ね。あれはね、もう。
だって、お腹見えてるんですけど。腹筋が割れてるって、すごくないですか? 俺ですか? 俺は……割れ、割れて……る? わけもなく。細いけどね。一応マラソン選手なので。でも、まぁ、それはいいかなって。最初はどうしよう! 俺の身体貧弱すぎて、全然ダメなんじゃ! って思ったんだけどさ。ほら、あの時、啓太とする時に。
初……えち……的な、の。
でも、あのらめぇ会長は細かったから、よく副会長が「細い腰だな。フフフフ……」って笑ってたから、多分、挿入される側は細くて大丈夫なんだと思う。多分。
――柘玖志、本当にいいのか。
その瞬間、頭にふわりと浮かんだのは、腹筋チラ見せで汗を拭いながら、そんなことを訊いてくる啓太で。
――細い腰だな。
フフフフは、不気味だから、なしにして、俺の貧弱ボディに微笑んでくれる啓太で。
すごいかっこ良くて。
最近、の、さ……その、おかず的なのがちょっと変化ありまして。今まではおっぱいおっきい女子とかさ、やっぱりそういう感じだったんだけど。最近は。
――柘玖志。
最近は、あの、やっぱりお付き合いしてるからでしょうか。
――柘玖志、怖がらなくていい。
若干、やっぱり陸から借りてる参考書の副会長感が出ちゃうのが、微妙なんだけど。でも、啓太の大きな手とか、低い声とか。あとは汗で濡れた感じとかを想像してですね。それをおかずに……。
「柘玖志?」
「はきゃああああああ!」
「だ、大丈夫か? すげぇ、険しい顔してたけど」
「え? あっ、マジで? へ?」
自分の額っていうか眉を隠そうと思ったんだけど、慌てて、俺の右手は思いきりビタンッ! っておでこを引っ叩いた。ちょっとアホだった。けど、だって啓太がいきなりこっちを覗き込むから。ドキドキしちゃって力が入ったんだ。
「緊張してるんだろ。明後日、大会だもんな。マラソン」
「……あ」
「柘玖志?」
「うんっ! そうそう、そうです! マラソンなので! ぁは、あははは」
忘れてはいないけど。ちゃんと今日の午前練だってきつめにやったし。引退大会に向けてラストスパートかけたけど。ただ、今の脳内はちょっと別のことでいっぱいだっただけで。
「明後日で引退なんだな」
「うん」
「俺さ……」
「?」
啓太のことでいっぱいだっただけで。
「柘玖志の走ってるとこ、いつも見てた」
「……へ?」
「サッカー部が練習してる時、たまにグラウンドの周りを柘玖志が走ってんの、こっそり見てたんだ」
「……」
「見れた日はすげぇ嬉しくて。たまに監督にめっちゃ怒られた。そん時はミスすっから」
そんなの、俺、全然。
「ずっと、片想いしてたから」
「……」
「柘玖志に」
ど、しよ。今、の、これは……すごいキュンとしてしまった。めちゃくちゃ、しちゃった。
「練習に集中しないとって思いつつ、柘玖志が走ってるとやっぱ目で追いかけてさ」
「……」
「走ってる時、おでこ出るだろ?」
「へ? こ、これ?」
「そう、それ」
おでこ、ピカーンって光りましたか?
「それがめっちゃ可愛くて」
そんな眩しそうに見つめられると。
「ヤバかった」
今、俺が、ヤバイです。
午後の夕方練習後の帰り道、早いお宅はもう夕ご飯の準備をしてるのか、二人でチャリンコを押しながらのんびり帰る途中、カレーの匂いとか、焼き鳥の匂いとか、なんかわからないけど美味しそうな匂いがした。
「やっぱ、ヤバイ」
「……」
サッカーの練習を女子が見に来る。けど、見に行きたくなっちゃう気持ちは超わかる。カッコ良すぎでしょ。なんですか、君は、すごいなってなっちゃう。
そんな啓太が前をじっと見つめて、振り返って、後ろを見て、それからぐるりと周りを見渡してさ。どうしたの? なんかあった? 誰かいた? そう、訊こうとした俺に、キスをした。
「……」
「わり。けど、人いなかったから」
首を傾げて、そっと触れるだけのキスをした。
啓太が片想いをしてた。
俺に。
マラソン練習してるとこを見ててくれて、陸上部と同じ練習日の時はラッキーで、走ってる時のおでこピカーンに喜んでくれて、キスをしてくれた。
「明後日、頑張れよ」
「……」
「応援してる」
自転車は押して帰るんだ。そしたら、一緒にいられる時間がたくさんになるから。カラカラと「なーんだ、乗らないの? 軽ーい」ってタイヤが回る軽やかな音を立てて。
あっちこっちで夕飯の匂いがする中をのんびり帰る俺らからはさ。
「あと、おでこ、可愛いから、前髪バリバリに固めてけよ」
「っぷ、やだよ」
「なんでだよ」
俺らからはきっと恋の甘い匂いがしてる。
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