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42 人生最大の

 テストは無事終了。結果は一週間後とかだし、お母さんには電話でテストが終わったこととか報告してたし、もう夜ご飯一緒に食べちゃったし、大丈夫。  そういう、無事テスト終わりましたみたいな祝賀会とかはないっぽい。  だから、大丈夫。 「すごい安かったのに、あの店、美味かったな」 「うん」  テスト終わった後にだいぶ早い夕飯を済ませた。ネットで見かけたパスタ屋さん。食べ終わったて店を出ると、もう日も落ちかけてた。夕陽よりも夜空に近い色が混ざり始めた空を少し見上げるように前を見た啓太の横を車が走り抜けて行った。 「山盛りで出てきたサラダ笑った」 「うん……」  パジャマ持った。っていっても、ちゃんとしたパジャマじゃなくて、家着のTシャツ、ハーパンだけど。あ、もちろんパンツも持ってきてます。わ、わかんないけど、なんとなく二枚ほど。なんとなくね。  俺、髪はナチュラル派だからワックス類はなくて大丈夫。たまに寝癖がついちゃったら、その時だけ、こっそり紬のを拝借する程度。 「駅、あっちの道だ」 「ぅ、うん」  パジャマにパンツ。タオルも一応持ってきた。それから。 「柘玖志?」  ローションとかも、持った。  駅前のホテルとかにするのかな。スタジアムの隣にあったけど、あそこは高そうだったもんね。初めて、あ、えっと、初体験? っていうの? そういうのだからって、綺麗な夜景が見えるとこじゃないと嫌です、とかはないので。少女漫画好きだけど。  っていうか、夜景の見えるホテルで「君の方が綺麗だよ」なんていう少女漫画、実際には見たことないし。全然、お見かけしたことありませんし。 「どうかした?」  だから、ラブホとかで、大丈夫。 「あ、あの、俺、自分の親には泊まりで出かけてくるって言ってある。陸んちに、ってちょっと嘘ついちゃってるけど」 「……柘玖志?」 「えっと、なので」  テストが終わったらさ、ご褒美っていうか、何か俺にできることない? って訊いたじゃん? そしたら、あるって、啓太が。 「なの、で」  親いるから部屋ってわけにはいかない、でしょ? 「なので……」 「柘玖志?」 「俺」  啓太がずっとしてみたかったこと。  ヤレたら嬉しい、コト。 「こ、ここここ、今夜」  ご飯屋さんを出てからずっと背負わずに抱えて持っていたリュックを、思わずギュッと抱き締めた。 「あの……」 「えっ? あの、柘玖志?」 「……」 「待っ、その、あー、あの」 「テスト、終わったら、したいこと、あった、じゃん?」 「えっと、柘玖志」  リュックの中には今夜のために必要そうなお泊りセットと、その、そういうことする時に必要な物が入ってる。 「だから、今夜」 「えっと、ごめん、なんか俺の言い方が悪かった、かも。あの、柘玖志としたかったことって、ピアノを」 「!」  小さな小さな声で、ピアノを一緒に並んで弾いてみたかったんだ、って呟かれた。本当、小さな声で、車の走り去る音ですぐに消えちゃうくらい。 「けど、柘玖志」 「! ごごごご、ごめん、俺、っ、勘違いっして、た」  俺としたかったこと、ピアノを一緒に弾きたかったんだって。啓太んちにはピアノないから部屋じゃできなくて、音出るから、お母さんたちびっくりしちゃうだろうし。 「ごめんっ、マジでっ」  つまりは、俺の勘違い。思いっきり。 「わ、忘れてっ、ホント、マジ、でっ」  恥ずかしくて、死んじゃいそうだ。蒸発したい。できそうなくらいに熱いし。ほっぺたんとこ。もしくは穴があったら埋まりたい。もう地中深くに埋まって、反対側のブラジルに住みたい。もう日本には一生戻ってこない感じで。 「えっと、その、俺っ」  できることなら、せめて、五分前に巻き戻りたい。 「ごめっ」  とりあえず、走って逃げ出したい。 「っ、俺っ」  嘘みたいだけどさ、十八にもなって、ベソかきそう。っていうか、ちょっと涙出た。だって、すごい勘違いじゃん。啓太が俺とエッチしたいとかさ、それを大事なテストのご褒美になんて、思ってただなんて。 「あのっ」 「待っ、」  マジダッシュしたい。でも。 「柘玖志! っ……柘玖志、してくれんの?」 「…………」  自分の人生最大の勘違いに本格的に泣いちゃいそうだった俺は、震えてしまいそうな声を堪えようと手を……。 「その、してくれんの?」  その手を掴まれた。 「俺と、してくれんの?」 「…………えっと、あの、ピアノ?」 「じゃなくてっ」 「えっ……と……エッ………………チ?」  その手を、ギュって、ギューって掴まれた。  人生最大の勘違いに蒸発しちゃいそうなくらいに真っ赤だった俺と同じくらいに、啓太も真っ赤だった。 「あ……の……」  二人して真っ赤っか、だ。  コクンと頷いたら、手首を掴んでた啓太の手が一度だけギュってものすごい力で握って、それから緩んで、柔らかく引き寄せられた。 「い……よ……」  近くて、近くて、キスできそうなくらい、とりあえずおでこはくっつきそうなくらいの近さで見つめられて、小さく小さく、返事をした。 「マジ、で?」  今度はコクンって頷いて返事をした。 「嘘……みてぇ……」 「な、何が?」 「夢、かな」 「何が、ですか?」 「だって、柘玖志が」  さっきまでとは違うほっぺたの熱さ。さっきの勘違いの時とは違う恥ずかしさ。気恥ずかしくて、たまらなくて、けど穴掘って反対側のブラジルには辿り着けなさそうだから、とりあえず、真っ赤になってる顔を見られないように。 「だって……俺が、なんなんですか」  今日のお泊りセットを抱えている俺を丸ごと抱き締めてくれる啓太の腕の中に隠れるように顔を埋めた。

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