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44 いつもの君
ど……どうしよう。
「……」
どこで待ってよう。入れ替わりでお風呂に向かった啓太が戻ってくるのをどこで待ってよう。ベッド? いやぁ。部屋の真ん中? いやぁ、なんか待ち構えてる感すごくない? じゃあ、部屋の隅っこ? 座敷童子かい。じゃあじゃあ、勉強机のとこ? 背中向けちゃってるじゃん。そして、勉強する気はございませんもの。
で、結局、ぐるぐるぐるぐる、ベッド、部屋の真ん中、隅っこ、勉強机を繰り返してて――。
「柘玖志?」
「……あ」
そしたら、啓太が戻ってきちゃった。
「お茶、飲みたくなるかなって思って、ついでに持ってきた」
まだ啓太、少し髪が濡れてる。
「あ、りがと」
急いで出てきたのかな。
「飲む?」
「あ、うん」
家着のハーパンが眩しいです。筋肉すご。俺もマラソンしてたから筋肉ある方だけど比じゃないや。っていうか、俺、そういえば、筋肉あるね。バッキバキのマッチョじゃないけどさ。マラソンやってたから細いんだけど、ほんと細いだけっていうか、あれがない。
あの、少女漫画的なほわほわふわふわ感がない。
「座れば?」
「あ、はい」
促されて、あれだけ迷ったベッドの端っこにちょこんと座った。そんで隣に啓太が座って、自分のペットボトルをベッドの足元に置くと、俺がもらった方のペットボトルを飲んだ。
ゴクゴクって喉を鳴らして、喉仏が上下に動いて。
「間接キス」
なんて、啓太が笑って言った。
「なんて……柘玖志?」
「!」
覗き込まれたら、ふわりと啓太からシャンプーの香りがした。良い匂い。
「あのさ」
「は、はい」
抱き締められたら、俺からも同じ匂いがした。
どう、しよう。なんかさ、言葉が追いつかない。ただ啓太の一つ一つを目で追いかけるので精一杯だ。
「キス、してもいいか?」
「い、よ」
やっぱり匂いフェチなのかな。新発見。まさかの、俺にフェチがありましたよー……。なんて考えてたら、キスしながら、抱きしめてくれる手がするりと服の内側に潜り込んできた。そのことにびっくりして飛び上がりそうになってしまう。ただ背中を撫でられただけなのに、抱き締め方は変わらないのに、服の布一枚あるかないかで、肌に直に触れるだけで、弄る啓太の大きな手に声が出ちゃいそうになる。
っていうか変んな声が出ちゃった。俺の人生で全くあげたことのない、すっごい変な声。それが恥ずかしくて、気まずくて、思わず、啓太の手をつかんでしまった。
「あ、あのさっ」
だって、あんな変な声は知らなかったから。俺、どっから声出したの? ってなっちゃったんだ。
「あの、お、俺、なんかと、できる?」
「……」
「その、エッチなこと、とかさ……えっと」
変な気持ち。変なムズムズ。変な俺。
「できるよ」
どこで待ってたらいいのかも、これからするだろうことを待ってるっていうこと自体にも、なんもかんもにドキドキしてる。
「けど……俺、女の子じゃないよ? あ! …………え! あ! もしかして、啓太、受け側? 俺、が、受け側だと思ってた。その、身長とか、で。勝手にそう想像してた。あ! あと、えっと、色々準備とかあるのもベンキョーした、その、する時、は、あそこを使うっていうのもっ」
「……」
「できるかなーって……啓太、その、やっぱそれはちょっとって……って、なんか俺一人で喋って、うるさいよね」
「……いや」
「その、こういうの……」
わかんないんだ。自分が自分じゃないみたいでさ。あんなに色々調べたのに、いざとなったら、なんか、ムズムズがすごくて、どうしたらいいのか。
「柘玖志は、平気?」
「……ぇ?」
「俺とするの。そこ、使って」
「!」
お尻を撫でられて、思いっきり飛び上がってしまった。
「無理ならやめよう。俺は我慢できるよ」
「無理じゃない、よ。ない……けど、ただ」
「ただ?」
「啓太こそさ、俺と、そのできる?」
変じゃない? 今の俺。自分が自分じゃない。だから――。
「できるよ」
ドキドキしすぎて、少し怖い。
「柘玖志と、できるよ」
「……」
「したい」
いつもと違うドキドキにはムズムズとクラクラが混ざってて、俺はどうしたらいいのかもう全然わかんなくて、不安で、緊張半端なくて。
こんな自分はちょっとやだった。なんか怖すぎる。啓太が怖いんじゃなくてさ、何これ、どうしたらいいのっていう怖さ。
もうぶっちゃけちゃえば、なんか快楽の溺れて、あ〜れ〜って落っこちて、もうそこから先はドロドロのエロエロで、大人の階段どころか如何わしい階段を登ってちゃって、みたいな。そうなったらどうしょう。俺、啓太の笑った顔が好きなんだ。そんなドロドロいかがわしい感じじゃなくてさ。その、えっと。
「柘玖志」
戸惑う俺に啓太がキスをした。
普通の、ちゅって、普通のキスを。いつもする、好きのキスを。
「柘玖志と……したい」
「……」
また唇が重なった。今度は唇を割り開かれて、差し込まれた啓太のベロに優しく絡めとられてく、いつもするちょっと深めのキス。これ、いつもクラクラしちゃうからさ、いつもみたいにしがみついた。そしたら、いつもみたいにしがみつちゃった俺を、啓太がさ、すごく優しく抱き締めてくれたから。
「あ、俺も……」
いつもと変わらない。
イチャイチャな感じのキス。
「俺も、啓太と、したい……です」
いつもよりもずっとすごく好きだって思ったから。
良いんだってわかった。
今からすることは変じゃない。自分が自分じゃなくなるんじゃなくて、今よりずっともっと好きな人と近付くためにするんだって、わかったから。だから、ギュッとしがみ付いたまま、いつもよりもずっと深く舌先を絡めて、めちゃくちゃイチャイチャなキスをした。
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