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47 愛でセックス するわけです。
できちゃった。
初体験。
最後までしちゃった。
気持ち良かったです。その、ものすごく。
ここまで長かったです。はぁ、長かった。ついにゴールインって感じ?
でもさ、ゴールって、最後までってさ。なんというか――。
「柘玖志? どっか痛いんだろ?」
「へ?」
考え込んでいた俺を覗き込んで、啓太が心配そうに、まだ余韻で火照ったほっぺたを手の甲で撫でてくれた。
「お茶、とりあえず飲めよ。もう常温だけど」
「あ、うん」
起き上がると、慌てたように手を貸してくれる。大きな掌で背中を支えられると、そこから啓太の体温が伝わってきた。
あったかくて、優しくて、ドキドキする体温。
「どこが痛い?」
「平気だよ」
「本当か?」
「ん」
本当に痛くはない、ローション使ったしさ。けど、ちょっとお尻に違和感はある、かな。まだ中に啓太のが入ってるみたいな感じがしてさ。
「やっぱ、痛いんだろ」
「ぇ」
「最後んとこ、俺、加減できなかった」
「……」
最後のとこ、だって。
ふとその単語に胸がギュってした。ついに最後までしちゃった俺らって思った、さっきの俺の頭の中にもあった単語。
最後、っていう単語。
なんかゴールっぽくない? なんか、終わりっぽくない?
すごい満足感。ものすごい達成感。まさに「ゴオオオオオル!」って感じ。
俺は少女漫画が大好きなんだけどさ。最終回ってあるんだよ。どの作品にだって終わりがある。高校生とか大学生とかでさ好きな人ができて、恋して、スッタモンダがあって、あーしてこーして、拗れて、拗れまくって、いつか迎えるハピエン。
ハピエンってさ、ハッピーなエンドってことじゃん。終わりじゃん。
でもまだ主人公たちは高校生じゃん。
そのままずっとお付き合いしてくってさ……けっこう難しくて、大変だろうと、恋愛経験がほぼない俺でも思ってた。俺の大好きなあのカプもこのカプも、あんなカプも、全部、ずっと一緒にいるのかなって。いつか、その――。
「ごめん」
「……」
「次は、もう少し余裕出せるように」
「……」
次、だって。
「とりあえず、軟膏持ってくる。そういう用のって買ってなかった。っていうか、それ買ってないのもごめん。とりあえず、塗っておいて、明日の朝、速攻で買ってくるから」
「え、ちょって、啓太っ」
「待ってろ」
「ぇ、大丈夫だって、痛くないないっ、と、わわわわっ」
なんかものすごく心配されてしまって、どこも切れてないし、痛くない俺は慌てて、下に軟骨を取りに行こうとする啓太の手を。
「ちょっ! 柘玖っ……」
啓太の手を取ろうと身を乗り出して手を伸ばしたら、案外、腰に力が入らなくて、そのままベッドから転げ落ちそうになった。
「っ、あっぶね」
けど、落ちなかった。高さ五十センチメートルのところからの落下……は、啓太のおかげで免れた。
「柘玖志、平気か?」
そんな真剣な顔しないでよ。大惨事は免れた…………みたいになってますけど。
「おい、どこが痛い? まさか血とか出てんじゃ……ちょ、見せてみろっ」
「え、ちょっ、へ、平気だって」
「平気なわけあるか。見せてみろ」
「ほ、本当にっ」
たかが五十センチメートルからの落下、落ちたってドチーンってなる程度。大惨事、な訳がない。
「柘玖志っ」
「っぷ」
大惨事じゃないってば。
「おい、柘玖志っ」
背中を支えてくれた大きな手で頬を包み込まれて、心配そうに覗き込まれて、胸のとこがギュってする。大事にされてるって、めちゃくちゃ伝わってさ。
きっと、あれだな。
「おいって、なんで笑って」
きっと、啓太はさ、結婚とかして、子どもがーなんてことになったら、すっごい甲斐甲斐しく世話するんだろうな。奥さんを。荷物なんてぜーんぶ持ってあげて、そんで、もしからしたら奥さんすらお姫様抱っことかしそう。無理すんな、とか言って。
「柘玖志?」
恋愛漫画には必ず最終回があってさ、その先のことってあんま知らない。一年後くらいの二人の話ならたまにあったりもするけど、もっと先、十年後のことなんて描かれてることはほとんどない。ないけど。
「次もまたしよう」
「柘玖志?」
最後までしちゃった。
ついに、結ばれちゃいました。心も、身体も結ばれました。
「俺、すごく気持ち良かったよ」
「柘玖志」
「めちゃくちゃ気持ち良かったです。なんか、こんなにちゃんとできるなんて思ってなくて、正直、最初はすっごいドキドキしたけど。でも、よかった、できた」
「……」
「啓太は? その、気持ち良かった?」
俺の魅惑の身体の虜になっちゃった? もうメロメロって感じ?
「当たり前だろ」
「なら、良かった」
「次も、しようよ」
「……平気、か?」
最後までしちゃったけど、これはさ、少女漫画じゃないから。あんなに綺麗にさ、朝チュンにもならないし、ベッドから転げ落ちるし、お尻のとこ、違和感あるし。もう啓太なんて心配しすぎなくらいで慌ただしくて、事後の余韻とかなくて。うふふふ、えへへへへ、って見つめ合って過ごしてないし。
「平気、次も、また」
「あぁ」
でも、少女漫画じゃないから、最後までしても、最後じゃなくて次がある。
「またしよう、柘玖志」
事後の甘い甘い、うふふふふ、えへへへへ、な余韻はないけど。
けど、ほっぺたにはその余韻が残ってる。まだ赤いだろうほっぺたを抱き締めてくれた大きな掌で包み込まれて、お互いにふわりと近付いてキスをした。
「そんで、マジで痛くねぇ?」
「痛くないってば」
「本当に?」
「本当に。けど」
「けどっ?」
「まだ」
「まだっ?」
「啓太が中にいるみたい」
「!」
――わかる? 愛でセックス するわけよ! ここにっ。
ここに、愛がさ、あるわけです。
「っぷ、赤くなった」
そんで、二人してまた、笑いながらキスをした。
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