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48 夏の終わり
この前のテスト、サッカーの強化選手枠に入れたかどうかの結果が届く前に啓太の引退試合があった。勝ち進めばサッカーできる。けど、負けたら終わりのトーナメント形式で、俺はその試合を全部応援に行っていた。
サッカーのことなんてわかんない。オフサイドっていうのだって、イマイチわかってなかったし。今でも、戦術とか分かってないし、フォーメーションとかわけわかめなままだけど。
でも、啓太がピッチの中を走り回ってるのを夢中になって応援してた。結果はもちろん。
「きゃー! すごくない? 優勝だってぇ」
うん。すごいよね。優勝しちゃったよ。うちの学校。地区大会優勝しちゃった。
「あのイケメン、めちゃめちゃかっこいい」
あ、ありがとうございます。イケメンなのに更にかっこいいって言ってもらえて、つまりは、かっこいいを連呼してもらっちゃって。もちろん俺のことじゃないのは分かってます。けど、ありがとうございます。俺の彼氏、褒めていただきまして。
「彼女いるんだろーなー」
います。
「めっちゃ可愛い彼女っしょ」
可愛……くはないです。
「うらやましー。超、自慢の彼氏じゃん」
羨ましいって言われてしまった。あと、もちろん、自慢の彼氏です。
「もうめっちゃベストカップルとかなんだろうなぁ」
ベストカップルでもないし、公表とかしてないし、できないけどね。
ピッチ上で試合の終わりの挨拶をして、応援席に並んでやってきたうちの高校サッカー部に片隅から拍手を送った。
地区大会優勝、そしたら、次は全国大会だ。
「よいしょ……」
隣に座る啓太のことをたくさん褒めてくれた女子がこっちへの挨拶を終えた啓太の背中に手を振っていた。当たり前だけど、隣に座ってた、「よいしょ」なんて立ち上がる時に言っちゃう、平々凡々な男子高校生がその啓太と付き合ってるなんて思いもしないよね。
今日は、きっと祝賀会とかなんだろうな。
――優勝おめでとう。お疲れ様でした。次は全国大会だ! 頑張って。応援してる。
「びっくりマーク……っと」
お祝いの言葉を綴り、送信、ってして。スマホをポケットに突っ込んだ。
「……」
なんか、すごいなぁって。だって知らない人がさ、啓太のこと話してた。そんなのって不思議じゃん。俺のことを通りすがりの人が噂してたらって想像すると、すごい不思議で――。
「あっつ」
空を見上げると真っ青な空に絵に描いたような入道雲があった。それをスマホで写真に撮ると自分が今見上げている空よりもずっと濃くて鮮やかな空が掌の中に広がっていた。眩しいくらいに真っ青なデジタル絵みたいな綺麗な綺麗な空だった。
「ごちそーさまでした」
ゴーヤの肉詰めって、なんかゴーヤ感すごくない? チャンプルとかなら全然大丈夫だけど、肉を詰めて焼くとなると、このゴーヤの苦さが全力で前に来ない? なんてことを内心では思いつつ、食事を終えた挨拶をして、手を合わせてから、自分の食器を流しに運ぶ。使ったお皿は自分で洗いましょう、じゃなくて、うちの家はお皿を下げるだけでオッケーなありがたい感じ。
「あ、ねぇねえ、おにーちゃんの高校、サッカーで優勝したんでしょ?」
「あー、うん」
「すっご。全国大会とか行ったら、応援とかしに行くんでしょ?」
「んー、どうだろ」
流しに置いて、自分の部屋へと戻った。
「あ……」
部屋に起きっぱなしにしてた。
「!」
スマホ、置いたままでご飯食べちゃったから見てなかった。
「お母さん! ちょっと外行ってくる!」
慌てて階段駆け下りて、ビーサン慌てて突っ掛けて、外へと飛び出した。紬はまだ食事中で俺のチャリは庭先に止まってる。それに慌てて飛び乗ると、急いでペダルを思いっきり踏み込んだ。
チャリでならすぐそこ。ものの数分。マラソン、もう引退しちゃったけど、でも、そのマラソンのおかげで持久力はすごいんだ。だから、もう夜なのに日中の暑さが全然残ってる中を颯爽と駆け抜けた。
「け、啓太!」
――応援来てくれてありがとう。おかげで勝てた。あのさ、もし時間あったら、公園で花火しねぇ? 待ってる。
「……おぅ」
「ご、ごめっ」
花火しようってメッセージが来てた。結構前に。でも俺は下で夜ご飯食べちゃってて、全然気がついてなくて、とにかく急いで公園に来た。
「いや、急に悪い」
「ぅ、ううんっ、こっちこそ、全然気が付かなかった。ご飯食べてて」
「そっか。晩飯の最中かもって思ったんだ」
啓太がふわりと笑った。
啓太はもう夕飯食べたの? って訊いたら、やっぱり祝賀会があったみたいで、皆でラーメン食べたんだって。しかも監督のおごりで。だから、めちゃくちゃ食いまくったってまた笑った。
「柘玖志とさ、花火、したいって思ってたんだけど、タイミングがなくてさ」
「あ、うん」
「もう夏休み終わりだし」
「うん」
「やろうぜ」
手持ち花火百二本、噴き出し花火十二本セット。二人でやるには少し多い気がするけど。でも、すごく、すごーく、ワクワクした。
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