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51 スーパーファンタジーな悩み事

 俺の彼氏が突然、すごい人になりました。  ヒョエエ、マジですか?  えぇ、マジなんです。すごいんです。聞いたら驚きます。  サッカーがとっても上手いんです。めっちゃかっこよくて、優しくて、頭もいいんですよ。でも、それだけじゃなくて、まさかの、聞いてください、まさかの、サッカー日本代表アンダー二十一の練習に参加しちゃってるんです。何やら同じポジションの人が怪我をしてしまったらしく。  お大事に。  確かに! お大事に。  怪我をしてしまったらしく、その代わりの選手として候補に名前が挙がったらしいのです。本人はとても謙遜していて、他の人はプロだったり、ユースでがっつり活躍している人だから、自分が選ばれることはないだろうと言ってました。けども、けどもです。高校生で部活動で、っていうのは稀なことなのなら、その稀っぷりも踏まえて、選ばれたのって、かなり確率高いんじゃないでしょうか。と、俺は分析してみました。  つまり、本当にあの青いユニフォームを着て、ピッチを駆け回ってしまうんじゃないでしょうか。  アンダー二十一の選手として。  そしたらテレビ出ちゃうじゃん。雑誌のインタビューとか受けるんじゃん?   サッカーなんて知らなかったけど、昨日見たプロリーグの人、試合直後、まだゼーハーゼーハーしてて、汗だっくだくなのにインタビューされてたもん。あまりに直後すぎて、鼻息が荒くて、マイクがぶほぶほいっちゃってたもん。  あんな風にインタビューされちゃうんじゃないでしょうか。  あんな風にテレビに出ちゃうんじゃないでしょうか。  それってすごくない?  俺の彼氏、っていうか、啓太って、すごくない?  雲の上の人すぎません? 平々凡々な俺の彼氏としては。いいのかな、俺で、啓太の――。 「んー、そうだなぁ、今のお前の成績ならもう一つ上の大学目指せそうだぞ?」  なんて、心ん中の誰かと話してる場合じゃない。今の俺にはそんなスーパーファンタジーな悩み事よりも、もっと平々凡々で、高校生なら誰しも、男子も女子も関係なく抱える悩みに直面している。 「まぁ、無理にとは言わないが、夏休み前の期末、かなり点数良かったからな。相当頑張ったんだろ」 「……はい」 「だから、お前の学びたいことを学べる大学で……お前、この学科希望だろ? そしたら、それと同じ学科のある大学に行ってみたらどうだ? せっかく頑張ったんだから」 「……はぁ」  教室の片隅、というか、中央で担任との進路面談……があったんだ。 「失礼しましたー」 「おー」  一礼して教室を出ると、俺の次になっていた前田さんが交代するように教室の中へと入って言った。  廊下には誰もいなくて、放課後、進路という大事な局面に立っている俺ら三年生は、受験勉強に忙しい。就職っていう人もいるけど、その人たちもやっぱり今の時期は忙しい。 「……」  陸は結構しっかりとさ、前から志望大学決めてたんだ。あいつ、そういうとこしっかりしてるんだよな。これからのBL界を担い守っていくのだ! って言ってた。雑誌の編集者になりたいんでってさ。もちろん、BL雑誌の。だからそれになるために良さそうな大学を選んでた。  俺は――。  ―― お前の学びたいことを学べる大学で。  先生にそう言われたけれど、そんなテンションで進路を決めてなかったりもしてます。とは、言えなかった。  とりあえず、で決めたんだ。  とりあえず、大学は行っておいた方がいいと思ったから。  とりあえず、俺の行けそうな大学選んで。  とりあえず、将来仕事に役に立ちそうな経済とかそういうの学んだ方がいいかなぁって思って。  とりあえず、通えそうな距離で、俺の頭で入れそうなところを選んだ。  ただそれだけなんだ。  だからさ、もう一つ上のレベルの大学と言われても、えー、せっかく決めたのに? とか思っちゃったりして。だって、とりあえずで決めたんだもん。何かを突き詰めて決めたわけじゃないんだもん。だから、選びたい放題。そしてどれでも選べると、むしろ選びにくくて、わけわかんなくて。 「……うーん」  ぶっちゃけ、将来とか、進路とかがそもそもわけわかんなくてさ。  それはきっと高校生なら誰もが持つ悩み。  けど、わけわかんなすぎて、俺は本当に呆れられそうですけれど、もういっそのこと誰か、先生で構いませんから、俺におすすめの大学を紹介してください。なんて思っちゃってみたりする。 「……はぁ」  陸はBL編集者。  啓太はサッカー選手。  さて、俺は。 「……うーん」  何がしたいんだろう。  何ができるんだろう。  何が俺に向いてるんだろう。 「……」  誰か、それを教えてくれたら良いのに。  そんな他力本願なことを思いながら、学校の外に出ると、まだひぐらしが鳴いていた。九月だけど、まだまだ元気にエモい音を奏でてた。  ――今日、練習に参加した。めちゃくちゃきつい。死ぬかと思った。 「あ、啓太からメッセ入ってた」  ――けど、すげぇ、楽しかった。怪我のことも伝えてあるからマッサージとかすげぇしてもらえた。日本代表専属の人。 「……」  そっか。なんか、すごいな。  話題も、啓太がいる場所も本当雲の上だ。 「……はぁ」  俺は溜め息をつきながら、地上から、オレンジ色の夕空を見上げた。

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