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始まり

さて、今日はどんな人間が来るのか。通常、人間には、神である京蘭(けいらん)や妖狐のスイの姿は視えない。 が、スイ達からは丸見えなので、くまなく観察することができるのだ。好奇心旺盛なこの狐。鈴木(すずのき)神社にやってくる人達を観察するのが大好きだ。 縁結びの神様である京蘭がいるここには、独り身の男や女がよくやってくる。ただ、山道の途中にあるため、神主は居ない。 居ないので、山のふもとの住民が交代で掃除をしに来てくれる。そのため割と綺麗だし、少なくともクモの巣が張られるなんてことは有り得ない。 「よっと!」 ぴょんっと木の上に登って、あぐらをかくと、若いカップルが賽銭箱の前で手を合わせているのが見えた。 (ふむ...。(つがい)で来たゆうことは、長続きしますよーに、とかかの?) カップルの隣では、京蘭が笑みを浮かべている。 「 ほお!この人間はなかなか殊勝(しゅしょう)だなぁ。500円も入れてくれたぞ」 よし、では願いを叶えてやろうと意気込む神が面白くて、スイはクククっと笑った。 (現金じゃのう) そんな事は知りもしないカップルは、なにやら甘い雰囲気だ。女のほうが男に腕を絡めて、可愛らしい声で尋ねた。 「 ねえ、悠悟君。なんてお願いしたの?」 「柚香を早く嫁に貰えますように」 「えっ、やだ〜悠悟君たら!私もね、苗字が平口になれますようにってお願いしたの!」 「すぐになれるよ」 「きゃ〜っ」 (なんか...幸せそうなのが伝わってくるのう。ふふん、京蘭様が、叶えてくださると言っておるぞ。そなた達の夢が実現する日も、そう遠くないはずじゃ) スイは、人間が笑っていたり、幸せそうにしていたりするのが大好き。それは彼の主食といってもいいくらいで。 「じゃあ、そろそろ帰ろっか。日も暮れるし」 「そうだね。えーと、一礼、っと」 二人がザッザッザ...とこちらに向かって歩いて来たので、スイはトッと木から降りた。 もっと幸せオーラを感じたくて、近寄ろうとしたのだ。 ――それが、彼の運命を大きく変える事になろうとは、一体その時誰がわかっただろうか。

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