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目と目が

木から降り立つと、目の前に男が歩いてきた。 そして。 目が、あった。 「「........!!!!!!」」 お互いに、動きがピタッと止まる。男が、ギョッとした様子で汗を流している。 「狐..。コ、コスプレ...?」 現代(というかこの世界)を生きる彼にとって、それは至極当然の発想であった。 が。 「 なあに、悠悟君。何もないとこ見つめちゃって。猫でも居た?」 そんな常識的な発想も、すぐ隣の恋人によりあっという間に消し去られてしまった。 額に汗が滲む。 「ゆ、柚香....見え、ねえの...?」 「へっ..何、やだ!お化け!?」 男の腕にしがみつく女、そして、サッと顔を伏せる男。 「目を合わせちゃダメだ...。行こう、柚香」 「う、うん...」 ザ...ッと何事もなかったかのように歩き出す二人。スイは色々と複雑だった。 (挨拶もせんとお化け呼ばわりとは、とんだ無礼者じゃ...) が、地味に落ちこんだのも束の間の話。すぐにいたずら狐の顔になり、にしっと笑った。 (ちょいとからかってやろう) 「ごほんっ...!おい、そこの人間よ」 いつもより少し低めのデスボイス(本人はそう思っている)で、男に声を掛けた。 「っ!!」 あからさまに肩を震わせるも、女を安心させるためか、そのまま歩き続ける。 スイは笑いそうになるのを必死に堪えた。 「明日、またここへ来い。さもなくば、その女を殺そうぞ」 「..........」 「ただし、お前も遺言はしたたためて置くんだな。っく、ふはは...、はーっはっはっはっはっはっ!」 「...っ走ろう柚香!!」 とうとう男は女の腕を引っ張り、ピューッと見えなくなってしまった。 「っふ...、あっはっはっはっは!!くくく、あの人間ったら、なんと哀れなんじゃろ!とんだ小心者じゃ!ひーっひーっ」 途中で堪えきれなくなり慌ててデスボイスで悪役風に笑ったのは秘密だが、スイは大満足だった。 山の奥にぽつんとある鈴木神社では、面白いものや娯楽は限られている。故に、久しぶりのいたずらが楽しくて仕方ないのだ。 人間の幸福が好きなこの狐だが、どうしても本能である「化かし」や「いたずら」はやめられないらしい。 「さあて、明日は忙しいぞ。あ!そうじゃ!鯨井にお面もらいに行こう!とびきり恐ろしいやつにしてもらわなっ」 尾を左右にブンブン振って駆け出す。 「んじゃ、行ってくるな――って、京蘭様、まだお金眺めとるんか?ほんに好きじゃねえ」 「んー...。スイ、夕飯までには帰りなさい。...っはー、やっぱ賽銭はいいなあ」 夕刻、スイが戻っても、夕飯は出来ていなかったとさ。

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