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第2話 どうだ天狗だ、怖いだろう

スイは、朝からそわそわしていた。ずっと、そわそわしていた。あの人間の男がくるのを、今か今かと心待ちにして。 ――お面職人の鯨井(くじらい)にもらった天狗のお面を装着し、鳥居の前でのしっと構え始めたのが今から約3時間前なのは、おいておこう。 京蘭が、腰を痛めるからと座布団を持ってきても、デスボイス(本人はそう思っている)で「いらぬ!!」とくわっと目を開くばかり。もっともお面をかぶっているので、その表情は京蘭には伝わらなかったが。 フサフサの尻尾をパッタパッタと地面に叩きつけ始めるスイ。さすがにしびれを切らし始めたらしい。 「あっちい!」 とうとう天狗の面を取ってしまった。 「まったく、いつになったら来るんじゃ!?日が暮れるぞ!」 「まだ8時だよ。しかも午前」 京蘭が苦笑する。 「もう8時じゃ!うあああ...。あの人間、まさか来んつもりか!?せっかくわしのことが視えるゆうのに、一緒に遊びたいなとは思わんのじゃろか!」 「遊びたいのはスイの方でしょうに..。しかし、不思議だ。今の時代に、まさかお前が視える人間がいるとは。私のことは視えていないようだったし、ごく普通の人間かと思ったが」 昔は、人々は生きていくのに常に五感をとぎ澄ましていなければならなかったので、(あやかし)(たぐい)が視える者は割といた。時代の変化というものは、人々の視覚をも鈍らせる。 「わしのことが視えるのは、心が綺麗じゃからかと思っとったが..。約束を破る人でなしじゃったわ。」 「ん...。約束というか脅し(おど)だが...。とにかく気をつけろよ、スイ。人間なんて、自分の欲のままに生きる(いや)しい種族なんだから。お前なら、そうだな、1発殴られただけで死ぬ」 「1ぱ...っ、し、失礼なこと言うな!わしはそこまで貧弱じゃないぞ!」 「この前犬に吠えられて逃げ回ってたのは、どこの誰だったかなあ」 「」 この狐、何かと弱い。 「あっ...、おい、スイ。あいつじゃないか?」 「!!」 石段をゆっくりと登ってくる、若い男。 あれは、間違いない、昨日の人間だ。 慌てて天狗の面を被り、仁王立ちになる。男がビクッと肩を震わせこっちを見た。 「早く来んか、人間」 「は、はい...」 (...!?) 真顔を保ちながらも、男の頭の中は?でいっぱいだった。 (あれっ、なんで天狗...!?狐の耳と尻尾見えてるけど!?なんでそのお面被ったんだ?)

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