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カクレンボ
恐ろしげなお面からピョコンと覗く、可愛らしい狐耳。それからふわふわ大きな尻尾。
そのアンバランスさに違和感を感じたが、口には出さないでおいた。
自分にしか見えていない幽霊のような存在が、今はまだ恐ろしかったからだ。
スイが腕を組んで、おっほん!!と咳払いをした。
「やっと来たか。遅かったな」
「す、すみません...」
「ふん。あと1分遅ければ、お前の女を八つ裂きにしていたところだ。待っててやったことをありがたく思え、小僧」
「はい...っ!!」
(っぶね...!柚香死ぬとこだった...!!)
青ざめる男。どうやら、自分より背丈の小さいスイに小僧呼ばわりされたことには気がついていないようだ。
「ところで、人間。お前、名はなんという」
「名前っスか..えっと、」
隣では、京蘭が頭を抱えていた。
(おい、スイ...、なんだその低い声は!似合っていない...。お前には似合っていない!)
「俺、平口悠悟 っていいます。悠久の悠に、悟空の悟です」
「悠...。悟空とはなんだ」
「あー、ドリゴンボールの主人公です。ほら、アレですよ...孫悟空...って言っても、知らないですよね、お稲荷様が漫画とか」
「しっ、知っとるわ、孫悟空くらい!西遊記じゃろ。あと、わしはお稲荷様じゃなくてスイじゃ。天皇様と一緒にされたら困る」
わちゃわちゃまくしたてられて、男――悠悟は、石段から落っこちそうになった。
「す、すみません...。スイ様と仰るんですね...。失礼しました」
「分かれば良いんじゃ、分かれば」
それにしても、あっちいなーと言いながら、スイはナチュラルにお面を外した。
口調もすっかりいつも通りだ。
悠悟は口をあんぐり開けて、今までの天狗の面と低い声は一体なんだったのかとしばし思案した。
(あっさりお面取ってるけど..。いいのか...?!)
京蘭はというと、もう見ていられなくなり、寝床に帰ってしまった。
「それで、スイ様...。ゆ、柚香の命は、取らないでいただけますよね...!?」
「んあー...」
(このまま帰すのは、つまらんな...)
翡翠 の瞳がイタズラに光る。
「そうじゃな。...今からわしと遊んでくれれば、女の命は保証しよう」
「遊ぶ...」
(柚香の命をかけた遊び...!デスマッチかなんかかな)
「そうじゃな、かくれんぼなんかどうじゃ?」
「カク、レン、ボ?」
変換が追いつかない。だって、まさかかくれんぼとは。いったい、どういうことだろう。
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