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カクレンボ3
ザッザッザッ...と砂利道を進む。上見上げて木を見たり、社の後ろを覗いたりしてもスイはいない。なぜか?
答えは簡単だ。
(後ろですよー、くくくっ)
ずっと悠悟の背後にくっついていたからだ。声が遠くから聞こえたのは、カモフラージュ。一度隠れた振りをして、もう一度戻ってきていたのだ。
妖狐は存在感を消すことも出来る。それこそ息をするようにたやすく。
だが、そうして後ろについている間、スイはずっと悠悟を見ていなければならなかった。
(綺麗な黒髪...。触ってみていいかな。あ、うなじにほくろが2つある)
じーっと観察をして、ハッと我に返る。
(い、いかん。集中じゃ、集中!かくれんぼだけは命を賭けても勝つと決めとるからな)
この狐、かくれんぼだけではなく蹴鞠 や駆けっこにも命を賭けている。要は暇なのだ。年がら年中遊んでばかりいる。
「いねーな...。おーい、スイ様ー!...ふは、かくれんぼなんだから、返事する訳ねえか」
(はーい...なんちゃって)
ふざけて心の中で返事をする。もう、笑いをこらえるのに精一杯だ。
「あ。足跡...。こっちか」
(む...。その足跡はどう考えても子グマのじゃろ!わしの足はそんな小さくないぞ!?)
「はははっ、スイ様はドジだな。こんなわかりやすいヒント残していくとか」
(わし、悠悟のこともう嫌いになった)
森を進むお洒落な大学生と、後ろであっかんべーをする狐耳の青年。どこからどう見てもかくれんぼをしているようには見えない。が、本人達には知る由もなかった。
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