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早く、早く
全身がガクガク震えて、頭が回らない。どうしたら良いのかまるでわからない。だが、スイはまだ何とか意識を保っていた。
「悠悟… 、」 「スイ様ッ!?」
悠悟の頭の中に、今にも死にそうなスイの声が木霊した。
「社に戻って…、京蘭様を呼んできてくれ…」
スイがそう言い終わらないうちに、悠悟はダッと走り出していた。
「すぐに戻るからな、スイ様!!!」
叫んで、ただただ走った。うしろではスイがもがきながらも、に…と笑った。
(森でかくれんぼはするもんじゃないなぁ…。)
血は、ますますあたりに飛び散るばかりだった。
「はっ...はっ...、はっ...、」 (ヤバいヤバいヤバい)
走っている間、悠悟は何度も転びそうになった。いつのまにこんなに遠くに来ていたのか、社にはまだ辿り着かない。それでも、少しでも早く!と必死に駆けた。たとえ会ったばかりの得体の知れない狐耳でも、たとえ恋人を殺しかねない人物でも。
彼は自分を庇ってくれた。命の恩人を見殺しにするなんてことは、出来ない。早く、早く。もっと早く。彼の命が尽きる前に。
―― 京蘭様が誰かは分からないが、力を貸してくれる存在であることは確かだ。
「っは...、つい、た...っ!」
ズザッ!!地面に倒れこむ。
「はあっ、はあっ、はあっ..........」
さっきまでの殺伐とした光景といっぺん、神社の周りは時が止まっているかのように、穏やかで心地よいままだった。
ぜえぜえ、荒い呼吸は休まらない。
「けっ...、京蘭、様...っ!スイ様が、クマにっ...!」
言い終わると同時に。カンッ!!と社の扉が開いた。障子が破れそうなほど強い音だった。
「っは...。おねが、しま...」
悠悟には、京蘭は視えなかった。だが、たしかにそこに『いる』と確信出来る存在感で。
ビュオオオ!!!と風が吹き、スイとクマのところへ続く道の木々が、次々と葉を揺らして。
京蘭は、まさに風の速さで行ってしまった。
「っあー...。ふ、はあ...。マジ、死んでませんように...」
悠悟は地面に這いつくばったまま、祈ることしかできなかった。
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